海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 8

ふたりの前には美味しそうな料理が並んでいた。

誘うように湯気を立て、つやつや光るそれらを見つめて、チャンミンもユノも、ただ黙ってじっと座っていた。

「…食べよ」

やっと、チャンミンは口を開いた。

そしてスプーンを手にし、ユノを見た。

「…ん」

ユノもスプーンを手に取る。

チャンミンはビビンバをかき混ぜ、ユノはスープを啜った。

「…うまいなあ、ここ」

「…個室が取れて、昼からやってて、味もいいのは、ここと、あともう一箇所くらいです」

「そっかあ。…いいとこ知ってんな、チャンミン」

「…デートに使いますか?」

意識的に軽く、チャンミンは言ってみた。

ユノはスープの中をスプーンでゆっくりかき回しながら、曖昧な微笑を浮かべて、視線は落として、答える。

「…昼間ふたりで出歩くのは、ちょっと無理かなあ」

「て言うか別れないの?」

堪えられず、根本的な質問をぶつける。

チャンミンの丸い大きな目を、ユノは上に跳ねるように目尻の上がったつぶらな目で見返した。どちらの目も、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れていた。

「……昨日言われて、考えてたんだ」

視線を手元にまた置いて、スプーンで掬っては戻し、掬っては戻しを繰り返し、ユノはとつとつと語る。

「別れなきゃな、って……。なんだけど」

カツン、と器の縁にスプーンが当たる。

「朝、起きたらさ………なんか、別れる気が全然ないって自分で分かったの」

チャンミンはユノの伏せた目を眺めながら、ユノは何故ずっと、笑みを絶やさないのだろう、と今日これまで抱えてきた疑問がなんとなく解けるのを感じた。

ユノは、自分を笑っているのだった。

確かに先刻もチャンミンには自嘲だと分かるときがあった。しかし、これは自分を馬鹿だと見下して笑っているというより−自分を面白がっているのだ。

ユノは不倫などと縁のないタイプだ。誰に聞いてもそう言うだろうし、本人自身そう思っていただろうし、チャンミンもまあまずしないだろうと思っていた。それが。今、目の前に座っている男は、事実に打ちのめされ憔悴しているが、失恋し荒れて落ち込んでいるのではなく、ただ淡々とそれを受け入れようとする姿勢を見せているのだ。つまりこれはディフェンスのための沈静化だった。動きを最小限にし、あらゆるものから身を守ろうとしているせいでひどく弱って見えた。嵐の中じっとうずくまる小動物のようだった。

そんな風になった自分を、ユノは自分でも驚きとともに迎えたはずだ。それできっと、自然と笑ってしまうのだろう。純粋におかしみから。

「……本気?」

「………うん」

「こんなこと、言いたくないけど………でも言わないといけないから言うけど、…ばれたら、やばいよ」

「うん。そうだよな。…別れなくちゃいけないのは分かってるんだ」

「…だけど、今すぐは、別れられない?」

「………チャンミンが別れろって言うなら、別れる」

ユノは既にスープをかき混ぜることをやめていた。

もう口には笑みなど1ミリも残っていなかった。

まっすぐにチャンミンを見て、本気でチャンミンに託していた。

チャンミンは口を薄く開き、眉を困った風に歪め、ユノの視線と希望を受け止めた。

ずるかった。

東方神起を、ユノはチャンミンに任せた。

チャンミンは頭の中にさまざまな考えが去来した。

別れた方がいいに決まっている。

それはもう、決定事項のようなものだ。

だが。

チャンミンの中で何かが叫んでいる。

ユノを今のようにただ仕事のみで年を取らせていいのか?

もちろんこれから、また色んな女性に出会うだろう。

しかしこれ程の執着を恋人に見せたことが、かつてユノにあっただろうか。

記憶を辿っても、チャンミンには思い出せなかった。

もしも今のような状態が続き、ユノから覇気というものが消え失せてしまったら、仕事に影響が出る。

もしもマスコミに漏れたら、下手したら東方神起は終わりを迎える。

いいことなんかない。

でも、とチャンミンは思う。

人生、こんなことで大事な人間をただ好きな女と別れさせて、なんになるっていうんだ?

俺はその選択をし、ユノに仕事と俺を残して、本当に満足なのか?

確かにその女性がユノと最終的に結ばれる可能性は、ほぼないだろう。

だけどそういう問題じゃない。

−歌うたいが恋をしないでどうするんだ。

チャンミンは瞬きをして唇を動かす。

「………仕事は、きちんとしなきゃ駄目ですよ」

どうしてか囁くように言葉が出た。

「やれるとこまでやってみたらいいんじゃないですか」

小さな目を可能な限り広げ、ユノはチャンミンを見つめた。

「……チャンミン」

「あと、ご飯もちゃんと食べないと駄目です」

チャンミンは石焼きにも関わらず、ほとんど冷めたビビンバを勢いよくまたかき混ぜる。

視線を動かさず、ユノがチャンミンを見続けているのを、チャンミンはビビンバを見下ろしながら感じていた。

「ほら、食べて。…残したら今の言葉、撤回します」

手を懸命に動かしながら、チャンミンはこのビビンバのような心中がばれぬよう、決して顔は、上げなかった。

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