海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 9

やはり今日、ユノはもう帰った方がいいだろうということになり、チャンミンはユノの家まで彼を送り届け、今、仕事に戻る途中であった。

今日おかしかったのは、体調が悪かったことにしますから。

そう言って、仕事に戻ると言ってかなり粘ったユノを、チャンミンは説き伏せた。

兄さんが戻ったら、みんな、じゃあ今朝はなんだったんだって思いますから。

ユノはうなだれて承諾した。

マンションの前で、マスクとサングラスをしたユノがチャンミンに向かって手を挙げるようすは、芸能人というより不審者に近かった。吹き出しそうになるのを笑顔に転化し、チャンミンも車の中から手を挙げて、その場を去った。

「どんな人なんですか」

ユノに問うと、困惑したような顔で、曖昧模糊とした返事が返ってきた。

「…どんな…?どんな………。…髪が、短い」

「へえ。意外だな。兄さん長い方が好きでしょ」

「うん。そうだな。でも、短いんだ」

「背は?」

「…低い。かなり低い」

「ほんと。色は?」

「…ちょっと地黒?」

「へえー!顔は?」

「…………なんか、パーツが全部、小さい。顔も、小さい」

「……バストがすごいあるとか?」

「ううん」

「手足が背と比べてすっごい長くて綺麗とか?」

「ううん」

「おしゃれなの?」

「……えーと、普通。パンツスタイルかな。ほぼ」

「仕事何?」

「会社勤め。なんだったかな、営業のはずだけど」

「どうやって知り合ったの、だいたい」

「仕事関係だよ。事務所の人に、なんかの仕事で、関係する会社の方たちがばーっと来てるのに挨拶させられたんだよ。その中にいた」

「なんでそれでそうなったの」

「……俺、手、怪我しててさ。練習で」

「はあ」

「挨拶したとき、彼女それに気付いて絆創膏くれたんだよ」

「はあ」

「名刺もらうじゃん。そんで、電話かけた」

「……すごい行動力だね」

「自分でもびっくりした」

「絆創膏もらって、惚れるって……高校生みたいな……」

「…うーん。絆創膏もらったというのもあるけど、それよりも、そのときの彼女の感じが…」

「…何?」

「さっき言ったけど、彼女すごく小さくて、俺のこと本当に、見上げてるわけ。…髪が黒くて、短くて…肌がつるっとしてて、浅黒くて…目が丸くて、黒目が黒いんだ。…パンツのスーツ着て…男みたいだった。うん。少年だった。だけど、口紅はボルドーなんだ」

チャンミンは思わず黙って、ユノがぼそぼそと、だが夢中で語るのを、ひとことも漏らすまいと耳を傾けた。こんなユノは初めてだった。別人と話しているようだった。

「怪我してますよ、って言ったんだ。声が高くて。一瞬何を言われたか分かんなかった。鞄から絆創膏出して、なんにも表情変えずに、どうぞ、って差し出してきた。俺、驚いて、慌ててお礼言って受け取ったら、いいえ、って言って、そのまままた仕事の話になったんだ」

「………それで?」

「…なんか、忘れらんなくて。あの顔が。あの声とか。あの雰囲気がさ」

「…そう…」

「うん。…すげー迷ったけど、思い切ってかけた。で、なんか適当に嘘言って、会った」

「……すごいな」

「なあ。すごいよな」

「彼女、…いくつ?」

「…えっと、……38」

「………さっ」

んじゅうはち、とチャンミンは繰り返す。

「ほんと驚いたよ。全然見えないんだ」

ユノはまた笑う。ははははーと。

「……そんなこと、全然気になんないんだよ」

信号待ちをしながら、チャンミンは昔の自分たちの曲を思い出していた。

まだユノとふたりになる前に、日本で出したアルバムに、入っていた。

日本ではたまにこういう曲が出されることがあるらしいことを、そのとき初めて、誰かから聞いた。ごく普通にメジャーなものとして、出回っていると。変わってるな、とチャンミンは思った。日本ぽいな、とも。

まだ、ごく、若く、チャンミンはただ、その曲調が気に入った。ライブで歌うのも、好きだった。

歌詞の意味をこんなに噛みしめることになるとは、数年前の自分は、全く予想もしていなかった。

信号が変わる。

アクセルを踏みながらチャンミンはその歌の出だしを口ずさむ。その高いキーが、車中を流れる。

Nobody knows…

誰も知らない。俺以外。

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