海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 15

12時を回る少し前には、自室に戻ろうとギョンスは考えていた。

さまざまなやりかたでギョンスに楽しまれたチェンは、疲れ果ててベッドに倒れている。何も身に付けず、筋肉の付いた臀部を見せて。もうほとんど寝入りかけていた。ギョンスは服を着ながら、そんな彼氏を見下ろし、愛情を込めて微笑んだ。

チェンの部屋にあるタオルを出して来て、ギョンスはチェンの体の汚れた箇所を、やわやわと拭く。あ…ごめ…、と、チェンはまた謝ろうとする。目を閉じたまま、体をもぞもぞ動かす。何も言わず、ギョンスはぬるぬるとした体の真ん中あたりを重点的に、清拭する。ある程度満足が行くと、乱れた掛け布団をチェンに掛け、脱ぎ捨てられた服を畳み、ベッドの脇に隠すように置いた。ローションのボトルなど、元の場所へと戻す。消臭剤をあたりに吹きつけ、暖房の設定温度を少しだけ上げる。

完全に眠ったチェンをまた見下ろして、ギョンスはその顔に掌を触れた。しばらくただそうすると、タオルを持ち、ギョンスは部屋を出た。

常ならギョンスはこのままシャワーを浴びてしまうのだったが、カイに何かを気取られるのが嫌さに、朝に持ち越そうと、着替えも持って来てはいなかった。静かにドアを閉めると、ギョンスは洗面所で手と顔だけよく洗おうと、そちらに向かった。

足音。

ダイニングルームに続くドアが開く。

振り向くと、カイが立っていた。

ふたりは無表情で、見つめ合う。

カイの後ろでは、ソファに集まった面々がゲームに興じているような声が漏れ聞こえる。

後ろ手に扉を閉め、カイはギョンスに向かって歩いて来た。

その表情から、あ、とギョンスは思う。まただ、と。全身に緊張が走り、足が床に接着されたかのように、動けない。

わずかに距離を開け、カイはギョンスの前で足を止める。

わー、という声が扉の向こうから小さく届く。

しかし、ギョンスはカイの目から自分のそれを動かせない。隙を見せたら。そんな恐ろしいことは、考えることもできなかった。

じり、と一歩近寄り、カイはギョンスを見下ろす。

冬の夜の、外気の匂いがした。

「……なにしてんの」

囁きのような質問をギョンスに浴びせる。

その目はおかしなふうに光っており、ギョンスはたじろぎながらも自分の戸惑いを見せまいとする。

「シャ、ワー、浴びるんだよ」

咄嗟に嘘をつく。

そう言えばさすがに引き下がるだろうと思った。そして洗面所のドアノブに手を掛ける。

「ふーん」

ドアを開けるギョンスがその中へ入ると同時に、カイはギョンスの背中を押して、自分も中に滑り込む。入り口に錠の掛かる音が、ギョンスの耳に悪夢のように響く。目を大きく開き、カイを見上げる。その顔は怒っているように、ギョンスの目には映る。

「何してんだよ」

体ごと振り向いて、ギョンスはカイに食って掛かる。場所が、気に食わなかった。狭く、密室で、———すぐそばには浴室で。ギョンスはぞっとした。何を言われ、何をされるのか。もう経験から、ギョンスは防御の姿勢を取るのみだった。

カイは荷物を床に置き、ギョンスにぐっと近寄った。そして、ふんふんと、ギョンスを嗅ぐ。黒目を左右に動かし、ギョンスはカイの顔を首を傾げ、避ける。

「………ジョンデ兄さんと、してたでしょ」

馬鹿にしたような目で見下ろし、カイは言う。

カイと目を見合わせ、ギョンスは口をわなわなさせる。

「何言って…」

「…匂いするもん」

再びふんふんと鼻をひくつかせるカイに、ギョンスは羞恥で顔に血が上ってくる。目をそらし、奥歯を噛む。

「…どっちの匂いなのかは、分かんないけど」

カイは視線を落とし、ギョンスの手の中にあるタオルを見る。

「それで、体拭いたの?」

ギョンスも自分の腕の下を見てしまう。タオルを掴む手に力が入る。

「どっちの?どっちも?」

ごくごく好奇心からのようにカイは尋ねる。

答えられるわけがなかった。

すさまじい屈辱にギョンスは体内の熱と全身を包む震えがどんどんと強くなる。ぶん殴って出て行ってやろうかと思った。だができなかった。黙って、俯き、立っていた。

「……風呂、入んでしょ」

目を、カイに向ける。その顔は捉えどころがない。

「入りなよ」

展開に虚を突かれ、ギョンスは体の力が抜けていく。言葉の示すところが、掴めない。

「見てるから」

カイは壁に、体と頭をもたせかける。

その顔は、これから起こることへの期待を隠しきれず、かすかな笑みが浮かんでいる。

「ほら、早く」

ふふふ、と笑いすら漏らし、カイは言う。

ギョンスは体中の力がほとんど抜けている。

タオルが指の先で、引っ掛かっている。

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