海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 19

忙しさとスケジュールのずれから、ギョンスとカイのふたりがふたりきりになるということは、その後ほぼなかった。

たとえひとつ部屋で眠るはずのお互いでも、睡眠の時間帯さえ合わなくなった。

ギョンスはこれ以上ないほど気が楽になった。

たまに顔を合わせても、そばにはメンバーたちがいる。

それとなく、カイのチェンへの振る舞いを観察しても、兄貴ぶるチェンと、弟としてしたいように過ごすカイという、昔から変わらぬ間柄の兄弟にしか見えなかった。

このまま、何もなかったようになるのではないかという、甘い期待がギョンスの中でゆっくりと膨らんでいった。

変わらず、チェンとは会っていた。

以前より少し、チェンはギョンスに積極的な態度を示した。

自分からキスやハグをし、セックスをしたいという意思表示もそれとなくするようになった。

その行為や仕草すべてを、ギョンスは微笑ましく思い、ときにからかいながら、受け入れた。

チェンは指を絡め合ってキスをするのが好きだった。

どうかするとそれだけで1時間以上が経った。

こんなにチェンがキスを好きだと、ギョンスはこれまで知らなかった。

唇が腫れそうになると、ギョンスは繋いだ手を優しく解き、肩に触れた。

唇を名残り惜しそうに離し、薄目を開けるチェンに、ギョンスはそっと囁く。「撮影あるから」。

ごめん、と言いそうになるのを、チェンはぐっと、我慢する。

そして最後に、自分から、音を立てて唇にひとつ、キスをし、チェンはギョンスの手を服の下に、迎え入れた。それがいつもの、ふたりの、逢瀬だった。



その日、練習室で、ダンスの全体リハーサルが予定されていた。

おのおのの仕事の進捗によって、集まる時間がまったくのばらばらだった。

自分がもしかすると一番乗りかもしれない、と予測しながら、体の空いたギョンスは、開始時間のずいぶん前に、通常使用する部屋の前に立っていた。

想定は外れ、もう誰か来ているらしい。部屋からは音楽が漏れ、シューズの鳴る音もそれに混じっていた。

邪魔にならぬようそっと、ギョンスはドアを開けた。細い隙間から、中を覗く。

カイが、ひとりで、踊っていた。

そのようす。

メンバーは、いや、メンバーを含むすべての人間は、彼の踊る姿を見ると、皆、呆気に取られてしまう。どんなに見慣れたと思っても、そうだった。バランスの取れた完璧な体型と、しなやかな筋肉。普段の姿からは想像もつかぬ豊かな顔の表情。どうしてか、カイは踊り出すと突然に、性的な神にでもなったかのようだった。顔と体、どちらもがそう、動いた。単純に男らしいとも違う、純粋なエロスがそこにはあった。ギョンスは久しぶりに、弟が本気で練習に励む姿を目にした。ああいう、ことがあってからは、初めてではないか、と思った。物陰に潜むようにして、カイとその鏡の中の分身を、じっと、見つめた。

ふっと、カイが鏡を通じてこちらに目を揺らした。

気のせいかもしれなかった。

だが、視線がぶつかったように、思った。

ギョンスは今、ここで部屋に入ることはできなかった。

すぐ目をそらし、扉を閉める。

とりあえず、トイレにでも行こう、とギョンスは踵を返した。他の者たちが来るまで、時間を潰そう。まだ、ふたりだけでは、いたくない。

男子トイレに入ると、鏡に自分が映っているのを、ギョンスは振り向いて、見た。己を見つめ、こんな人間の何がいいのだろう、と、音楽と舞踏の神に間違いなく愛されたメンバーのひとりに、思いを馳せた。

背後の扉がふわりと開いた。

そこには、さっきまでその姿に見惚れ、たった今その才能を賛美していた相手そのものが、いた。

「…ジョンイン」

無意識に、ギョンスは彼を呼んだ。

ドアが揺れ、中に、カイは入って来た。

その眉。目。口。

あ。

とギョンスは思う。

終わってなかったんだ。

膨らんだ希望的観測は、泡沫のように、どこかへ消えた。

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