海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 20

「…なんで、部屋、入って来なかったの」

カイはギョンスから目をそらさなかった。

ギョンスもまた、そらさず、答えた。

「………邪魔かなと思って。…お前、すごい踊ってたから」

眉間を人差し指で掻き、顔を横に向けて、カイは呟く。

「…邪魔じゃ、ないよ、別に…」

「…分かった。じゃあ、戻ろう、部屋」

そう言ってカイの横を通ろうとしたギョンスの腕を、カイが掴んだ。

見上げると、すぐそこに、カイの顔がある。

ギョンスの白目の中の、黒目が揺らぐ。

瞬きをし、カイは開いた唇から言葉を零す。

「………写真のことだけど」

ギョンスの脳内に、ここ最近あったカイとのできごとすべてが、ものすごいスピードで円を描いた。

写真、という単語ひとつで、ギョンスはカイの言うことを退けられないという事実を、改めて、思い出す。

「…まだ、持ってるから」

掠れた声で、カイは言う。脅しの、言葉を。

ギョンスはその写真の存在の有無について、疑問視した記憶が、額のあたりに貼り付いたようにある。それを口に出すのが怖かった。なんと言われるか、想像がつかなかった。

「……………どうする?」

どうするって。

どうするってなんだ。

ギョンスが二の腕の真ん中を掴まれた状態で、ふたりは相手の顔しか見ていない。

お互いの出方を、鼓動を速めながら伺っている。

「………………見せろよ」

ギョンスの声も、常よりざらざらと響いた。

扉の向こうで、ふたりづれらしい男の話し声と足音が聞こえる。

カイは振り向き、取った腕を引っ張って、一番奥の個室に、ギョンスを連れて、入った。

何も言う暇もなく、ギョンスはされるがままに、その狭い空間にカイとふたりになった。

男たちは通り過ぎ、誰も入って来なかった。

息を殺して便器の前に、ほぼくっ付いたような格好で、ギョンスとカイは立っていた。

「……もう行ったよ。出よう」

顔をそむけたギョンスは言う。

扉に腕を付いたカイは、すぐ上からギョンスを見下ろしている。吐息が、かかる。

ロックを外そうと手を伸ばすと、その手をまた取られた。ギョンスはカイを見る。

強い力で、握られる。

「………見なくていいの?」

とろんとした目をギョンスに向け、条件の提示が始まる。いつもの通り、ギョンスは身構える。

「……………なに、してくれる?」

カイは手を滑らせ、ギョンスの手を握る。湿った、熱っぽいカイの手。同じように、その瞳も、潤み、熱を持っている。見上げるギョンスは、自分に課された課題を、受け止めるのに必死だった。

何を、するか?

この空間で。

時間もない。

だが、このようすだと、実際にあるだろう実物を、目にしないわけにはいかない。

どこまで、できる?

なんなら、満足する?

それなら、見せないと言わせないには。

「き、す、してやるよ」

目を落として、カイのスポーツウェアの胸のロゴをギョンスは見た。前も、そう言えば、ロゴを見ていた、と頭の隅で思いながら。

そしてまた、カイの反応を見るため、目を上げた。

ぼうっとした表情で、何も言わず、ゆらゆら動く目をギョンスに向けている。

「…それなら、いいだろ」

ギョンスは渇いた口の奥でごく、とわずかな唾を飲み込む。

「………見るだけじゃなくて、見たら、消すからな」

口の隙間から、気の抜けた「うん」という返事が、返ってくる。

何かを踏み越えてしまう気が、ギョンスはした。

しかしもう、後には引けなかった。

「……………頭、下げろ」

言葉の通り、カイは扉に片腕を付き、片方の手はギョンスの手を握り、ゆっくりとギョンスに向かって顔を落とした。

ギョンスは手を、その首の後ろに持っていく。

頭を抱えるようにして、カイの顔を支える。

カイは、目を閉じることができないらしかった。震えるように、黒い中心を左右に動かし続けている。

対してギョンスは、目を閉じた。

瞼の裏で、自分の恋人を想った。そして、そっと、謝った。

膨らみ、張った、顔の中の色の濃い、自己主張する一部分に、ギョンスは自分のそれを注意深く、重ねた。

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