海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 22

それからまたしばらく、カイと長時間顔を突き合わせることなく、時は過ぎた。

多忙を極め、家にいること自体、ギョンスはほとんどなくなった。

時折目が合うことがあると、カイは自分から顔をそむけた。

必要があれば、口はきいた。

普通の会話が交わされた。

だがやはり、ギョンスの顔を見下ろすのは難しいと、カイは思っているようだった。

あらぬ方を向いて、言葉だけでギョンスと繋がりを持った。

カイらしいな、とギョンスは思った。

こんなふうでなく、話がしたかった。

こうなる前の、屈託のない、いたずら好きな瞳で、やんちゃな妖精のような表情で、自分と向き合って欲しかった。

————キスしたことを、悔やんだ。

しかし本当は、一番初めの段階で、食い止めなければ、いけなかったのだ。

あのくちづけを悔やみながら、ギョンスはそれが不可避だったろうことを認めていた。

いつかは、しなければならなくなっていた。

自分が努力して差し出せる限界が、唇だったのだから。



寝る間を惜しんで、チェンの部屋に通った。

カイとキスした日、メンバー全員が集まった。

その中に当然、チェンもいた。

別の人間に唇を許したすぐあと、彼に会うのは、ギョンスとしても気まずさを感じないではいられなかった。

そしてそのキスの相手も、おそらく抜いてきたのだろう、特別盛り上がりのないパンツの前を皆に晒して、すぐそばに立っている。キャップを目深にかぶって。

チェンはちらりとギョンスを一瞥した。

にこっと甘い笑みをこしらえ、ギョンスと視線を合わせると、素早くまた黒目を元の位置に戻した。

胸がきりきりとした。

その日すぐは、チェンとふたりにはなれなかった。

お互い部屋にひとりではなかったから。

でも、ギョンスは早くチェンと会いたかった。

それなのに、会いたくなくもあった。

かなり強い罪悪感が、ギョンスの体の中を毒素のように巡っていた。

いつも手を握り合い、それぞれの口が樹液の出る穴であり、自分たちは虫であるかのように、ただひたすらに、唇を吸い合っているのに。

同じことを、カイともしたのだ。

背徳感を抱えながら、それでも、ギョンスはチェンの待つ部屋の扉を開けた。

ベッドに座って、常と変わらず、チェンは彼を見て幸せそうに笑う。

鍵を下ろしながら、喜びと苦しみがギョンスの心を渦巻く。

気にするな。

自分に言い聞かせながら、ギョンスはチェンの元へ行く。


「大丈夫?疲れてないか?」

顔色の芳しくない恋人の顔に手を添え、チェンは眉間を上に上げる。

チェンのさらっとした掌の温度を頬に受けながら、ギョンスは心地よさに自然と笑みが出る。

「平気だよ。…忙しいだけ」

「寝た方が…いいんじゃないか?」

深夜を回っていた。

チェンは本気で心配していた。

自分と過ごしては欲しい。だが、倒れてももちろん、欲しくなかった。

顔の上に置かれたチェンの手の上に、ギョンスは自分のそれを重ねた。

「……今日ここで、寝ようかな」

相手の目を見つめ、ギョンスは呟いた。

その顔にあるパーツの端という端を上げたり下げたりしながら、チェンは答える。

「…変に、思われないかな?」

喜びと不安が一緒くたにチェンの心を支配したのが、ギョンスは手に取るように分かった。

瞼を閉じ、ぐっと、チェンの手を自分に押し付ける。

「…話してて、そのまま寝ちゃったって、言えばいいよ」

本当に、もう眠ってしまいそうだった。

チェンの首に唇を付けながら、夢を見たいと思った。

「…じゃあ、そうする?」

小首を傾げてチェンはギョンスを覗き込む。

ほのかに頬や耳を染めて。

ギョンスは目を開けその姿を見、目尻を下げて、「うん」と言った。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。