海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 32

考えさせて、ギョンスはそう言うのが精一杯だった。カイからその目をそらしつつ。

いやだ、絶対に無理だ。

そう、言えなかった。

チェンのことと、カイのこと、両方で、できなかった。

ギョンスは誰からも抱かれたくなどなかった。

男を抱いてはいるが、それはギョンスにとって特例のようなもので、自分が抱かれるなどとは想像も、ほぼしたことはなかった。

チェンが求めてきたら、とちらりと思ったことはあった。

それでもまるで現実味がなかった。

自分に抱かれるチェンに対し、よく受け入れるなとすら思っているところがあった。

本当は自分を抱きたいのに、我慢しているんじゃなかろうかと疑ったこともある。

だが、そうではなさそうだった。

抱きたい気持ちはありそうだが、抱かれることを真に望んでいるらしかった。

それで安心し、ギョンスはチェンを好きにした。

カイから、抱かれる。

そのようすを少し頭に浮かべるだけで、背筋をざわざわとしたものが通った。

やはりギョンスは、基本は異性愛者だった。

自分に興奮した男が、この体にのしかかってくるのは恐怖と嫌悪でしかなかった。

すぐにでも、この話を退けたかった。

だが、想いに焦がれたこの子供が、どんなことをしでかすか、ギョンスの想像では追いつかなかった。

本当にチェンに話すかもしれない、と、ギョンスは思った。

きちんと、自分から事情を説明したら。

それでも、チェンとカイの間には、深いわだかまりができるだろう。そしてそれは、決して解消されないだろう。

ギョンスはその事態だけは避けたかった。

愛するふたりを、修復できない関係にさせたくなかった。

脳内を激しい葛藤が飛び交った。体の疲れが、そこに追い討ちとして戻ってくる。

もう、座っているのもやっとだった。

カイが、立ち上がり、何やらごそごそと荷物を引っ張り出すのが、目の一部分に映り込む。

何か大きなものを携えて、こちらにやって来る。

ギョンスは無意識に、体が強張った。

「はい」

言いながらカイは、その手に持った四角い箱を、ギョンスの顔の前に突き出した。

銀色の包み。

見覚えがある。

「……これ」

「…兄さんからの、プレゼント」

ギョンスは丸い瞳でカイを見上げた。

カイはそれに耐えられないというように、視線を横に置く。

「返す」

ん、と言って箱を上下に軽く振る。

受け取らないまま、ギョンスは言う。

「…いいよ。……お前に、やったんだから」

「…これと…引き換えだったから。…約束は、守るよ」

横目でギョンスを一瞥する。

「……お前のサイズなんだ。返してもらっても、困る。……使えよ」

カイを見るのをやめ、ギョンスはプレゼントからも目をそむけ、ベッドの上の自分の手を見た。

「ううん。俺、使わない」

差し出した手を下ろし、こちらを見ないギョンスを、カイは見下ろした。

「……俺が嘘言わないって、分かってもらいたいから。……一度、したあとで、また、ねだったり、しないって」

本気だ。

ギョンスは何度も何度も思ったことを、また思う。

まっさらな本気だ、と。

「………約束するから」

カイを、振り仰ぐ。

一瞬合った目を、カイはすぐそらす。

箱をベッドの下に戻し、そのままドアに向かった。

体が向こうに消える直前、背を見せたカイは、仕事、お疲れ様、と呟いた。

扉が閉じられる。

部屋にひとり、残されたギョンスは、全身の力が抜けていく。

ベッドに倒れ、目を閉じる。

獲物としての自分を、持て余して。

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