海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

シング シング シング(+人さらいの条件)番外編 ーー成長の過程ーー

蛇口が閉められ、湯は止まった。

チェンは鏡に映る自分の顔をあちこちチェックすると、踵を返してドアに向かった。

ノブに手を掛けようとした瞬間、扉が勝手に、向こうから開いた。

驚いて体を引く。

開いたドアの間から、ギョンスがひょこっと顔を出し、ころりと黒目を動かしチェンを認め、さっと滑り込んできた。

動きを止めたままのチェンを顧みず、ギョンスはそのままドアに背を付き、自分の体でぱたんと閉める。

真顔でギョンスはチェンを見つめた。

シャツのボタンを一番上まで留め、ジャケットを着た青っぽいギョンスと、肩の線がはっきり出る、タートルの綿ニットを着た茶色っぽいチェンは、お互いをまじまじ眺め、どちらもがなかなかいいな、と思っていた。だが口に出すことはなかった。

我に返ってチェンはギョンスに告げる。

「…仕事だよ」

「仕事だな」

「…行かないと」

「行かないとな」

背中をドアに預けたまま、わずかにギョンスは小首を傾げた。

チェンはドアノブに手を伸ばそうとする。

すると、ギョンスがノブに手を掛け開けられないよう力を込める。

さすがに顔が綻んで、笑いを噛み殺している。

その顔を見たチェンも、気の抜けた笑みを浮かべ、なんだよ、と問い掛ける。

上目でチェンを見つめたまま、唇をぎゅっと結んで口の中で笑い続けるギョンスに、ノブに伸ばしていた手を、チェンはその顔へと進路を変える。

その頬に、指輪の光る手を添え、目の中を覗き込み、チェンは眉を切なげに歪める。

笑いがギョンスからだんだんと遠退き、またもとの真顔へ戻る。顎を心持ち上げて斜にチェンを見下ろす。

動いた顔の上の手で、チェンは自分の正面に相手の顔を持って来ようとする。

かくっと、ギョンスはまた顔を上げる。

そらされた顔のもう一方側の頬に、チェンは残る一方の掌を置く。

力を込めて首を上げ続けるギョンスを、チェンは両手で無理矢理、自分の目の前にその目を位置付けた。

途端ギョンスの体の力は、抜かれる。

頬を両手で挟んだまま、チェンはギョンスの顔に顔を寄せる。

目を閉じ、チェンは、目を開けたギョンスに、キスをした。

唇と、唇の表面を、ぴと、と合わせるだけの、それだった。

顔から距離を取り、瞼を上げたチェンに、ギョンスは言う。

「…腰抜け」

侮辱されたチェンは、眉の八の字の傾斜をきつくし、頬に置いた手の力を込め、ギョンスの顔を傾けた。

今度は口を開いて唇をすべて塞いだ。

歯を磨いたばかりのチェンのキスは、ミントの味だ。

前よりこういうスースーするのが、苦手じゃないな。ギョンスは思う。

ん、んんん、と、チェンの喉は悦びを奏でる。

手がノブの上のギョンスの手を取る。

指を絡めるのに合わせ、舌の絡みもより強くする。

と、突然にチェンはどちらの力も抜く。捉えられたギョンスの体のそこここが、すべて解放される。

知らぬうちに目をつむっていたギョンスは、それに驚き前を見る。

ノブに手を置いたチェンが、くすりと笑ってギョンスに囁く。

「先に行ってる」

言葉と同時にノブを回して外に出る。

目をぱちくりさせたギョンスは、ふっと笑い、洗面台へと近付いた。




おわり

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