海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

束の間から

「たでーまー」

俺、ジュンミョン兄さん、セフンがソファでくつろぐ中、体を大きく動かしながら、がたがたとチャニョルが帰宅した。

おかえりー、とくちぐちに言いながら、その姿に目を向けたのは俺だけだった。

傍らのふたりは食い入るように新しく始まったドラマを見ている。

チャニョルがいつものごとく物音を立てずに動くことがなくとも、長年の慣れとこういう仕事には欠かせない集中力を持って、リーダーと末弟はそのどろどろとした愛憎劇にはまり込んでいるようだ。

綿ニットの帽子を被ったチャニョルは、鞄を下ろさぬままリビングルームのようすを見定め、テレビの前をずかずか横切り、投げ付けられる文句を無視して部屋へ向かおうとした。

俺は手元の楽譜に目を落としながら、なんとなくチャニョルの動向は感じていた。なんといってもこの歌は難曲だった。こんなところで殺す殺さないの葛藤を繰り広げているテレビの中の男女の怒号を聞きながら、立ち向えるものではなかった。

キッチンの向こうのドアの前で、チャニョルは立ち止まる。

「ベッキョー」

適当な発音で俺を呼ぶ。

「来いよー」

顔を上げた俺は返事もせずに立ち上がる。

楽譜を持ったまま、並んで瞬きもしないメンバーふたりを残し、俺はチャニョルの方に歩いて行く。



今日の夜は、チャニョルの同室メンバーは撮影で朝までコースだ。

ひいひい言いながら、というのは嘘だが、疲れ切った半分寝ている体を引きずるようにして、車で送られていくやつらを見送り、俺は朝から、同情と、ひとつの予想を立てていた。

自室のドアを開けて俺を中に入れ、後ろ手でノブの上の鍵を横にチャニョルがしたとき、その勘は当たっていたことを確信した。

手に持ったものや身に付けたものをぽいぽい取り外しているチャニョルを、ぶらぶら部屋へと進んだ俺は、立ったまま見ていた。手の中の楽譜がかさかさ音を立てている。

身軽な体になると、チャニョルは俺を見て、言った。

「今日さ、……しねー?」

なぜだかチャニョルは、このときいつもちょっとバツが悪そうなさまを見せる。

いたずらが見付かった子供のような顔を、今も俺に向けている。

俺は、こいつ彼女にもこんなふうなのかな、と毎度想像してしまう。

多分違うだろうが、こんな誘いはまったくもって気をそそられるものではない。

そんな思いとは裏腹に、別に拒否する気は俺にはなかった。

「…いいけど」

視線を合わせながら受諾を伝える。

チャニョルはみるみる嬉しさを顔中に広げる。だがなんとなく目は下を向く。

「やりぃー」

ひひ、と言いながらトップスを一枚脱ぐ。

持ったままの楽譜を机にぱさっと置くと、俺も一枚上を脱いだ。

もう、だいぶ暖かくなり、暖房も要らない。

これからやることに、そんなものはそれこそ、必要なかった。

自分のベッドの上に座り、チャニョルは待ち切れないというように手をこまねいて俺を呼ぶ。

多少呆れ返って、俺はまたぶらぶら相手の元に向かう。

立っている俺の手を取り、にやにやと俺の顔を見上げ、言う。

「今日朝から考えてたんだよな」

やっぱりな、と俺は思う。

苦笑した俺は、あっそう、とぞんざいに答える。

「うん」

俺の手を引っ張って、そのまま向かいに座らせる。

そのきらきら光る、馬鹿でかい目を、俺にそそいでチャニョルは言う。

「ずっと楽しみだったんだわ」

なんだそりゃ。

一日中このことを思い出してはうきうきしているチャニョルが浮かび、俺は笑えばいいのか叱ればいいのかよく分からなくなる。

しかし結局そのどちらもしない。

俺も、そういうとこが、ないではなかったから。

取っていた手を、自分の方に寄せ、俺にそばに来るよう促す。

尻を浮かせて要望に答えると、チャニョルは俺にその顔を近付けた。

こいつはいつも、必ずキスから始めるな。

そう思うと同時に、俺はチャニョルの唇を唇に受けた。

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