海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

憂鬱のすきま 番外編 【黒と白】

その、黒い闇が外を染める夜。

カーテンをひいた明るい部屋の中、チャニョルは新しく買ったおもちゃの説明書を読んでいた。

ソファに腰掛け、そばのテーブルの上にはコーヒーが半分ほど減って、置かれている。

相変わらずそのカップの上では、おかしなライオンらしき生き物がこちらに吠え掛かっていた。

コーヒーに再び手を伸ばしかけたとき、ドアが開き、風呂上がりのギョンスが現れた。

音に顔を上げたチャニョルは、手を止め、そのほかほかと湯気を立てるようなギョンスのようすをじっと見た。

ギョンスはスリッパを履いた足で、すたすたとキッチンに向かう。

冷蔵庫の開く音がチャニョルに届く。

続いて、液体を入れ物につぐ、とととととと、という水音も。

耳を澄ましてチャニョルはコーヒーを飲んだ。音楽鑑賞するかのように。

手に透明なグラスを持ち、ギョンスはソファにやって来た。

目を上げ、チャニョルは声を掛ける。

「ギョンス」

コト、とテーブルにグラスを置き、ギョンスはチャニョルの斜向かいに腰掛ける。

「お疲れ」

体を沈み込ませながら、ギョンスもチャニョルに口をきく。

チャニョルは手元を見るふうにしながら、グラスの中身になんとなく目を走らせる。どうやらただのミネラルウォーターだな、チャニョルは判断する。

「寝ないのか?」

体をぐっとソファにもたせ、首をかしげるようにして、ギョンスは尋ねる。

珍しく足を投げ出し、股を開いている。

チャニョルは、スリッパの上に置かれたその素足を、横目で見る。

「うん、なんか眠れなかったから」

指で挟んだ紙が、かさ、と鳴る。

「風呂、入れば?」

グラスを取って、ギョンスは厚い上唇をその縁に付ける。

「うん。朝、入るかな」

そう言って、視線を説明書から動かさない。

こく、こく、こく、という、ギョンスの喉の響きを聞いている。

ぷは、小さな吐息の音がしたのと、チャニョルの目がギョンスに向けられたのは、同時だった。

「ギョンス」

テーブルにグラスを戻すギョンスに、チャニョルは視線を注ぐ。

「ん?」

体をソファに預け、ギョンスはチャニョルを見る。チャニョルは言う。

「なんか、ついてる」

ギョンスの背後を覗き込むようにして、チャニョルは上半身を伸ばす。

「え?」

チャニョルの視線を追い、ギョンスは背に腕を伸ばす。

「見せて」

立ち上がり、ギョンスの目前に寄る。

ギョンスは首を俯け、その背骨の線を見せる。

恐竜みたいだな。

チャニョルは思う。

そしてスウェットの中に瞳を動かす。

指先で、襟首をそっとつまむ。

続いていく骨。

肩甲骨の四角。

するするとした肌の白。

それ以外は、なにもない。

首のへこみと襟足まで視線を戻し、チャニョルは告げる。

「なんか、取れたみたい」

「ゴミ?」

顎を引いて声のくぐもったギョンスが、問い掛ける。

「うん。もうないよ」

チャニョルは後ろ歩きで自分の元いた場所に座る。

顔を上げたギョンスは、サンキュー、と言い、襟首を手で直している。

「あーもう寝なきゃな」

伸びをしながら、ギョンスは目をつむる。

「そうだな」

夜の黒はどんどん濃くなる。

俺たちは世界にふたりきりだ。

チャニョルはただ、心で呟く。




おわり

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