海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 番外編 【記憶とダンス】

しまった。

カイは鞄の中に荷物を準備しながら、練習着の替えをすべて洗濯に出してしまったことに、気が付いた。

ここ最近練習とリハーサル続きで、どんどん汗をかき、どんどん着替えのストックは消えた。

クローゼットの引き出しを片っ端から開ける。

分かっていたことだったが、やはり、練習着はなかった。

大きなため息をつき、カイは後ろ頭を掻く。失敗したなと、改めて思う。

部屋のベッドに投げ出されたリュックサックに、残りの要り用のものをぞんざいに収めていく。

あとはドリンクだけだ。

問題は、なにを着るか。

手を止め、カイは視線を動かしながら、ベッドのそばから一歩、足を引いた。

床の上、すべては目の届かぬ奥の方、かすかに輝くなにかがあった。

カイは、その中身を教えられずとも、包装紙のデザインの中に組み込まれたロゴを見て、自分がなにを贈られたのかをもらったときから察していた。

あのとき。

これをもらったことも、すごく、嬉しかった。

贈り手の思いやりが、痛いほど伝わってきた。

なのに、これは、本当は、突っ返したはずのものなのだ。

取り引きの条件に。

カイは立ち尽くしたまま、瞼を下ろした。

背を向けた窓のカーテンから、日が透け、その体は照らされる。

指の一部が、ぴく、と動く。

ゆっくりと、瞼は開いた。

胸がわずかに、大きく、上下する。

携帯へのメッセージの到着を告げる音が、静かな部屋に満ちる。

鞄の横に置かれた携帯を手に取り、カイは相手を確かめた。

唇が少し、引き結ばれる。

間を空けず、素早く返信し、尻のポケットに携帯を突っ込む。

枕元にある寝巻きのスウェットを放り込むと、リュックサックの口を閉めた。

それとほぼ同時に、部屋のドアの向こうから、ひょこっとギョンスが顔を出した。

「ジョンイン、行くぞ」

あの声で、名を呼ばれる。

まっすぐな、ふくよかな声で、混じりけなく。

顔を上げたときには、もうギョンスの耳しか見えなかった。

歩き去る、その下のエラの線、襟足の黒さ、首の後ろの流れ。

一瞬でカイの脳に蓄積された内容が、更新される。

再び、それとともに踊るだろう。気付いたら、いつだって。

………約束には、反している。

肩に荷物を掛け、カイは部屋を後にする。

隠された包みは暗い中、銀を鈍く光らせる。

太陽はさんさんと、ベッドの上のみを照らす。





おわり

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