海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

グレーゾーン 番外編 【花の色は赤】

「ねえ、それ、なに?」

タオのハングルは、すこぶる発音が悪くなっていた。以前以上に。

思わずスホは笑ってしまう。

中華料理店の個室は、全体が朱色で、ふたりは赤い花の中にいるようだった。

頼んだ注文は、まだ来なかった。

お腹が空いた、とかたことでタオは零す。

スホは袋の中の缶に手を伸ばし、包装とテープを解いた。

その間、タオはわあー、と、目を輝かせ、掌を合わせ、少女のような歓声をあげた。

蓋を開けた中身は、昔、ふたりで食べたクッキーの詰め合わせと、ほとんど変わらぬものだった。

「これかー!」

タオは財宝でも見るかのように、テーブルの上の缶に顔を寄せた。

「食べよーよ」

顔を上げ、スホに笑顔で言う。

「今から、料理来るだろ」

苦笑しつつ、スホは蓋を閉じようとする。

「えー」

眉を寄せ、本気で哀しそうな表情をするタオに、スホは閉じかけた蓋を少し開け、缶から1枚、クッキーを取り出す。そしてぐっと、缶を密封する。

「はい。これ1枚だけ。今は」

それはぐるぐるとチョコレートが渦を巻く、四角いクッキーだった。

タオの目の前に、人差し指と親指で挟んだそれを掲げる。

寄り目になったタオは、なにも言わず、じっとそのマーブル模様を見つめた。

口をぱか、と開く。

スホは反射的に、タオの口に入りやすいよう、水平にクッキーを倒した。

ぱく、と、指まで、その唇はクッキーを包んだ。

ぷに、と、ぬる、という感触が、スホの末端を、一瞬、襲った。

内心、びっくりしたが、顔にはなにひとつ、表わさなかった。

顔を離したタオは、もぐもぐざくざく頬を動かし、満面の笑みでうまーい、と言う。

手を、膝の上に置き、スホも微笑む。

「…よかったな」

こく、と首肯し、ごくりと飲み込むと、タオは言った。

「…兄さんの指、たべちゃったー」

あはは、とタオは笑う。

それを受けたスホは、なんだか赤面してしまう。笑顔も消える。

膝に置いた指先は、唾液が乾き、変な感じだ。

くすくす笑うタオの耳では、ピアスも一緒に、笑っている。

花の中は、蜜で満ちている。





おわり

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