海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

心中の道連れ 5

ごく短い歌録りが始まろうとしている。

化粧品のCMで使われる曲で、今日は俺とベッキョンだけが呼ばれていた。

ミキシングルームに座っていろいろな指示を受けながら、俺たちは楽譜を眺め、少しずつそのメロディを口ずさんだ。

歌い出しはベッキョン、その後を追って俺が続く。

中盤はハモり、俺がひとこと呟いて歌は終わる。

なかなか美しい曲で、俺はかなり気に入り、知らぬうちに笑みが浮かんでいたらしい。気付くとベッキョンがこちらを見てにやにやしていた。

「…なに」

今日録音風景の軽い撮影が入っているため、ベッキョンは薄くメイクを施していた。

今朝見た顔よりかすかに縁取られたその中を見、確かにこの曲の雰囲気にはこのくらいのイノセンスがちょうどいいのかも、と俺は思いながら相手を見つめた。俺に至っては主に肌しかいじっていなかった。

「…気に入ったんだなーこれ」

溶けそうな笑顔でベッキョンは言う。

その顔を見ていると、何故だか俺はそれを手で思いっきりごしごしとこすり上げたくなる。想像の中のベッキョンの悲惨さに、思わず俺も笑ってしまう。

「うん。お前は?」

俺のようすを見、ベッキョンはなにが面白いのかますます笑って俺の腕を軽く押す。

「そりゃ気に入ったよ。長くしてアルバム入れたいくらい」

ふー、と鼻から息を抜き、ベッキョンは楽譜に目を移し、その細く華奢な長い指で、音符をなぞった。それとともに喉から声を響かせる。

色っぽい声だな。

普段話しているときそんなふうには感じないのに、歌い出すと突然それは心身を疼かせるなにかを持つ。

喉の底でかすれる声は、得ようとしたって無理なものだ。

俺はベッキョンの口、顎、首を見る。

歌詞を作り出す舌が、ピンクをちらちらとこちらに覗かせ、顎から首にかけての繊細な線が、空気の増減で緩やかに上下する。

「……どうだ?」

歌い終わり、ベッキョンは俺を向く。

そこには得意げな感じなど微塵もない。

眉も目も口も、端が下がっている。

本気で、俺に尋ねている。

「…いいよ」

「まじで?」

「うん」

「こことか、どう?」

楽譜を指し示す指を、目で追う。

ベッキョンが反対の手の人差し指で、唇を押しているのが、視界の隅に映る。

口を閉じたままハミングで指した部分を繰り返すのが、耳に直接入ってくる。

鼓膜といっしょに、全身が震えたようだった。

俺は楽譜から目を上げベッキョンを見る。

表情、指、唇、声。肩のかたち。

また、俺はそれをぐちゃぐちゃにかき回したい衝動に駆られる。ほんの一瞬、強烈に。

目を動かさない俺を不審げに、ベッキョンは見返し、「だめ?」と聞いてくる。

「……ううん、すげーいいと思う」

そう言うと、俺は楽譜に目を戻す。

この曲は、叶わぬ愛を歌っている。

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