海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

心中の道連れ 6

録音ルームに入ったギョンスが、眉を心持ちしかめながらプロデューサーたちの声を聞き、頷いて楽譜にメモをしている。

膨れた唇がわずかに突き出ているようだ。

録音を先に済ませた俺は、ガラスのこちら側から、歌うギョンスを見つめていた。

周りからどう思われるかを気にすることなく、まっすぐ視線の先に立つあの不思議な男をじいっと観察できるのは、とても楽しく面白い。

俺だけのために歌ってくれているような錯覚すら、覚えた。


きみの頬が光を弾く

ぼくはどうしたらいいかわからない

触れたい気持ちばかりが募る

でもきみはぼくのものじゃない

でもきみはぼくのものじゃない


ギョンスのグルーヴが部屋を包む。すべてのものに、かっと色が付き、抜けていく。


爪の先が まつげの影が 唇の色が

ぼくを誘う

触れたい気持ちばかりが募る

でもきみはぼくのものじゃない

でもきみはぼくのものじゃない


さっき歌った歌なのに、それは全然違うなにかだった。

バックの音と文字通り絡み合い、もとからともにあったかのようにひとつのものとして存在を始める。

ギョンスは音を追いかけるということがない。

いつも一心同体だ。

俺は爪を噛み、前屈みになる。

その、空気に球体を作り出し、そして泡の如く儚く姿を消すような声が、そこにいる人間の体を通り抜けていく。

足から溶けていくような、全身がふわりと浮くような、自分が連れ去られるような不安に、俺は体を小さくする。

嫉妬と恍惚が手を繋ぎ、防御の姿勢をとった俺は、瞼を下ろして歌うギョンスの、いつもは見えぬ奥歯や、勝手に動いているだろう指、幅の狭いなだらかに下りる肩、細く敏捷な腰回りを目に映した。

俺の声と重なる部分を、細かなビブラートを駆使してギョンスは歌う。


すべて見たい

きみをかたちづくるすべて

ぼくはきみを心に彫る

なんどもなんども繰り返し

小さな変化 大きな表情

なんどもなんども繰り返し


爪を噛む口が止まる。


でもきみはぼくのものじゃない

でもきみはぼくのものじゃない


大気の中に放り出された俺は、かたちを成さなくなりながら、リピートされていく曲を聴き続けた。

「はーい。オッケーでーす」

声を掛けられたギョンスは、安堵の表情を浮かべ、途端に少年になってしまう。

「続けてオンリーでセリフ録りまーす。何パターンか録りたいので、間を空けて、ご自分で好きに3回ほど言ってみてくださーい」

スイッチを入れて送り込まれた声を聞き、ギョンスはこくりと頷く。

また、顔は性別と年齢を得る。

「はい、どうぞー」

手を差し出すジェスチャーとともに、録音が始まる。

俺は体勢を変えぬまま、ギョンスが瞬きもせず、そのふくいくたる香りのする声を、変化をつけて発するのを聞く。


ぼくのものになって

ぼくのものになって

ぼくのものになって

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