海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

心中の道連れ 8

「ギョンス、ギョンス」

俺は前髪が瞼にかかった子供のようなギョンスを、肩を掴んで軽く揺すった。

熟れきった果実のような唇の間から、穏やかな寝息が漏れている。

「起きろ、着いたぞ」

もう一度揺する。

左右の目がテンポをたがえて薄く開く。

「…だいじょぶか、…仕事だぞ」

俺は目尻と眉尻が下がる。

ギョンスの寝ぼけたさまは本人から年齢をなくし、俺は誰に話しかけているのかがぼやける。

「……ん」

沈んでいた体を起こし、ギョンスは頭を振って荷物を取った。

車のタップから下に降り、俺は背後に立ったギョンスを振り向く。

今日は雑誌の写真撮影だ。

……目の前の青い顔や黒い隈は、メイクでうまく隠してもらえるだろう。

マネージャーが車をロックし、さっさと俺たちの前を歩いて行く。

夕焼けをうまく撮影に盛り込みたいらしく、まだ昼下がりの今、ロケ撮影現場では照明スタッフがカメラマンと相談しながら動き回っている。

ギョンスが眩しさに大きな瞳を凝らし、口を歪めるのを見て俺は笑いを零す。ギョンスの表情のバラエティーは捉えどころがない。完全なポーカーフェイスが突然破顔する。

唇のかたちと歯茎の色を見て、俺がふふふ、と口を閉じたまま笑うと、ギョンスは俺をばしんと叩く。

「いってー」

それでも笑顔をやめない俺と、俺を睨みつけるギョンスは、メンバーたちの待つヘアメイク場所へと向かう。

「……お前さっき」

見た目よりずっと大人びた響きを持って、隣で歩く男が呟く。

「あ?」

「……なんでもない」

「なんだよ」

「なんでもないって」

「なんだよ、言えよ」

「なんでもないってば」

「絶対嘘だろ」

「嘘じゃねーよ」

「言えよ」

「やだ」

「頑固だな」

「そうだよ」

「気になるだろ」

なーなー、と俺はギョンスを肩で小突く。

ゆら、とその衝撃を受けて揺れるギョンスは黙している。

俺は伏せられた目を横から見る。

なんだよ。……そんな顔すんなよ。

陽を受けた鼻から唇、顎の線が、消え入るようになっている。

「………………俺の真似してたろ」

こちらを見ない顔を俺はじっと見ながら、足を止めない。

「…ああ、……寝てるかと思ったのに」

へら、と俺はまた笑う。

なんだか笑う感じでないのは分かっていた。

でも笑わずにいられなかった。

笑わなかったらどうなるかが、怖かった。

「ごめんて。馬鹿にしたんじゃないんだって」

勢いをつけ、俺はギョンスの手を取った。

繋いでカップルみたいにぶんぶん振った。

重なった手は湿っている。俺もギョンスも、ふたりとも。

「あれがすごいよかったからさー。だからだよ」

ギョンスを俺も見られない。

上を向いて間が抜けただろう顔で、おかしな大きな声で言う。

もう、みんながあそこにいる。

「ほんとだって。お前のものになっちゃいそうだったよ」

そう言ってやっと、取った手の主を向く。

なぜか言葉を出した瞬間、俺は繋いだ部分の力をわずかに強めたようだ。

ギョンスは俺を同じ高さの視線で捉えた。

おれのもの。

お前のもの。

「……なに言ってんだよ」

黒と白が俺を見つめる。

「……冗談だって」

笑えない。

そっと、手を、手から抜いた。

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