海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

心中の道連れ 10

「俺を憐れんでよ」

「憐れむ?」

「そうだよ。こんなことを言って、こんなことをしている俺を憐れんでよ」

「……そんなこと……」

「嘘つかないでくれ」

「嘘なんか」

「俺のこと惨めだって思ってるんだろ?それをそのまま口と目に出してくれ」

「………そんな………」

ギョンスが追い詰められた顔で俺の手を掴む。揃えられた指が上から突き出した状態で、俺はその力の強さに少なからず驚く。思わず身を引き、痛いと口に出しそうになるのをやっとで押しとどめた。

ぎらぎらした瞳は、俺の見たことのないギョンスのそれだった。

ギョンスだけでなく、他の人間からもこんな目では見られたことがないように思った。

俺は射すくめられるという言葉がぴったりとくる心境で、続く言葉を待った。

「早く。かわいそうにとか、馬鹿なんじゃないかとか、好きに言ってくれ。見下し、蔑み、慈しんでくれよ。頼む」

その声は魔法の呪文を唱えている。

どうしてギョンスはこんな声をしているんだろう?

どうしてこんな顔を?

どうしてこんな唇を?

どうしてこんな目を?

ギョンスのことしか頭になくなる。

俺は震えた。寒さのせいでなく震えるのは仕事以外には、なかった。

「………愛してるって、言えないんだろう?」

そう言って近かった距離を、更にギョンスは縮めた。

ソファのへこみが俺の重みと混じる。

手は掴まれており、俺の汗なのかギョンスの汗なのか、しゅううと音がしそうなほど熱く湿っていた。

俺の目の黒い部分は、ゆらゆらと横に揺れているはずだ。

対照的に、ギョンスのそれはまったくぶれず、俺を一直線に指していた。

もう、のしかかられそうになった俺は、体を反らし、腕を置く部分に背を触れた。

ギョンスは手を離さず、ソファの背もたれにもう一方の手を乗せ、前髪を揺らしながら俺を斜め上から見下ろす。

影になった顔の中で、瞳は変わらず猫のように光っている。

自分の感情が自分で判断がつかない。

ただ、早く、と思った。

「……ギョンス」

掴まれた手の指先を、ギョンスの手に絡めた。

じっと俺を凝視したまま、ギョンスが口を開く。

「………名前、違うだろ」

そう言うと、目線をそらした。

体を起こし、元いた場所に座り直す。

当然手も解放され、俺は倒れたような格好でギョンスを馬鹿みたいに見た。

「…それに、手をなんとか振り払おうとするんだよ」

ゆっくり、上体を起こす。

ギョンスは手をぐっぱ、ぐっぱと握ったり閉じたりするのを自身で見つめながら、続ける。

「……受け入れてんだろ、それじゃ」

「………だってそんなすぐに覚えらんねーよ」

テーブルに置かれた台本に視線を移す。俺も同じ動きがしたかった。むしろ俺の方がしたかった。手がしびれて本当に変だ。

「台詞も動きもほとんどないだろ」

「それでもさっき読んで今ってのはさ」

「……せっかく相手が出来たと思ったらこれかよ」

「なんだよ。勝手にお前がそう決め込んでただけだろ。だいたい俺酔ってんだから無理だっつーの」

「酒なんか飲んでくんなよ」

「そんなの俺の好きだろーが」

「使えないな」

「自己中かよ」

俺たちは顔も見ずに喧嘩のように言い合った。

しかし話の中心をぐるぐる回るような言い争いは、なにも解決しなかった。

台本の中のふたりと、同様だった。

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