海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

慈雨、降りそそぐ 1

いつからか、見られているな、と、ジョンインは感じてはいた。

でもさすがにこんなことになるとは、まったく予想もしていなかった。

昼下がり。

仕事前のひととき、ジョンインは常通りソファに陣取り眠っていた。

少し暑かった。

両腕を伸ばし、頭上に掲げて仰向けになったジョンインは、唇に心持ち隙間をこさえ、寝息をすうすう規則正しくそこから奏でていた。

メンバーはほとんど仕事に出ており、マンションには数人しかいないはずであるのを、眠る前にジョンインも認識していた。そのうちのひとりがチャニョルであることも。

ドアが優しく開閉される音を、夢見心地でジョンインは聞いた。

なんとなく、チャニョル兄さんかな、と、その足音の重みで予測した。ベッキョン兄さんやジュンミョン兄さんより重量感がある、と。

近くに寄って来る抑えた足音を聞きながら、ジョンインは、喉が渇いた、と思った。そして少し、唇を動かした。気を付けて見ないと気付かない程度に。

すぐ横にチャニョルが立ったのも、ジョンインは分かった。なぜかそのままじっとしているのも。しかし寝ぼけたその頭では理屈など空転した。ただ、水持ってきてくれないかな、などと虫のいいことを願うばかりだった。

左腕の上の方が、ぐっとへこんで、自分の体がほんのわずかに傾くのが分かった。なんだ?と思った、次の瞬間、開いた唇と唇の間になにかが埋まった。柔らかくて、湿ったなにかが。覚えのある感触。いっきにジョンインは現実へと舞い戻った。そして考えることなく瞼を開けた。

思った通り、チャニョルの顔がそこにはあった。出会ってから一番大きいサイズで、親しい兄貴分を見た。チャニョルの目は開かれていた。要するにキスしたまま、ふたりは目が合った。

ゆっくりと、チャニョルは屈めていた体をジョンインから離した。そして、

「ごめん」

と言った。猫背で、大きな目を泳がせて、両の口角を下げて。

ジョンインは肘で体を起こし、夢でないことを自分に納得させようと脳が回転していたが、目の前でうなだれるチャニョルから目を離さないことしか実際の行動はできなかった。やはり喉は渇いていた。唇の上の違和感とともに、ジョンインを抑え込んだ。

「ほんとに、ごめん」

謝罪を繰り返し、チャニョルは次の言葉を何にするか苦悩しているようだった。眉間を寄せて、漫画みたいな顔をした自分より背の高い年長者が、こんな風に自分に向かって弱ったさまを晒しているのが、ジョンインに経験のないむずがゆさを覚えさせた。上半身を起こし、ソファに座った格好になると、チャニョルはジョンインを見て、口を開いた。

「ちょっと、えっと……したくて。しちまったんだけど、でも、勝手にしてほんとごめん。ほんと、悪かった。……でもいたずらとかそういうんじゃなくて」

ごく、と唾を飲み込む音をジョンインは聞いた。きらきらした目を、それに対するには力のない状態の瞳で、受けていた。

「………すきなんだ、お前が」

深く低いその声が愛の言葉を囁けば、どんな女もどうとでもできるだろうと密かに羨ましくさえ思っていたまさに武器を、自分に振るわれ、ジョンインは固まった。見上げたチャニョルは化粧などしなくとも、どこにいたって光を発している。喉が痛い。水が欲しいよ、兄さん。まだジョンインは、そんなことを思っていた。





つづく

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。