海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

慈雨、降りそそぐ 3

仕事を終えてマンションに戻ると、チャニョルがまだ帰宅していないことをジョンインはそれとなく確認した。

最近気に入りのスニーカーはないようだし、声もしないし、姿も見えない。

たぶん大丈夫。

そう思うと心から安堵し、疲労し、汗をかいた体をもたもたと浴室へ運んだ。

誰も今入っていないと分かると、軽く皮膚に張り付いた衣類を剥ぎ取り、シャワーの前に立った。

顔から湯を浴び、目を閉じると、昼間のことがまざまざと浮かんできた。

水をたっぷりついだグラスを受け取り、ジョンインはなにも言わずそれを喉に流した。

乾いた土に水が染み込むように、その体に水分はもたらされた。

グラスの表面に触れる指先から伝わる冷たさも、ジョンインに落ち着きを、わずかに取り戻させた。

横のひとり掛けソファに脚を揃え、小さくなって座っているチャニョルにちらりと横目を向ける。

顔を少し俯けて唇を噛み、脚の上に視線と両手を置き、腿から膝をゆっくりと手指で擦っているようすを見て、ジョンインはいたたまれない気持ちになった。こんなチャニョルを見たらただでさえ胸が痛むのに、そうさせているのは自分なのだ。

こふん、とジョンインは軽く咳払いした。ひんやりしたグラスを両手で持ち、ゆらゆら揺れる水面を見つめながら。

「ジョンイン」

名を呼ばれ、肌がぴりりと反応する。

ただ黙るしか法はなく、返事すらせずジョンインは待った。

「……なにか、お前に求めてるわけじゃないから。できたら、…なんも気にすんな。…勝手なこと言って、ほんと悪いけど……」

ジョンインは心中慌てて、しかし傍目にはごく普通に、またグラスに口を付けた。

そのさまをちらちらと上目で見ながら、チャニョルは続ける。

「……ああいうことも、もう、絶対、絶対しねーから。……許してくんねーかもしんないけど、それも当然だと思うけど、……なんとかこれからも、いっしょにやってって、ほしい……」

そう言って深く頭を下げたチャニョルを見て、ジョンインはグラスを干した。

そしてふー、と、大きく息を吐き出し、コン、と、テーブルに空になったグラスを置いた。

「……分かったよ……」

唇の先だけで呟くようにそう言うと、ジョンイン自身の耳にもひどく悲しげにそれは響いた。

チャニョルはぎくしゃくと顔を上げ、視線は落としたまま、ありがとう、と、苦しげに告げた。

全身を濡らしたジョンインは、これからどんなふうにチャニョルに接したらよいのか、考えようとすればするほどそこから逃げ出す自分がいるのを強く意識しながら、体を泡だらけにした。

もともと白より若干の色を持ったその肌は湯で温められ、常以上に濃く染まり、白い泡で包まれるとコントラストが極まった。

気の済むまで洗うと、また頭からシャワーを浴び、体のソープを落としていった。

肌を手で擦りながら、こんなふうにすべてがなかったことになればいい、と思った。

本気で、そう思った。





つづく

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