海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

グレーゾーン 5

明日、中国にたつ。

夜、スーツケースに荷物を詰めながら、スホは床に座り込んでタオへの返信について思いを巡らせていた。

思案するというよりも、考えているとゆるやかにタオのいろんな表情や言葉や笑い声などが浮かんできては消えていくといった風だった。だからもちろんメールの文面などを具体的にはこれっぽっちも準備できていなかった。

会う?

むしろ、何故、会わない?

着替えを端から詰めながら、焦点をどこかに揺らすスホは、自分の心境が掴みきれず、ただタオが兄さん、と呼び掛ける声や、肩に回してくる腕の重み、もともとの隈をより濃くして口を開けて寝入る顔などが脳を占拠するのを感じるしかなかった。

コンコン。

ノック音で我に帰る。

「はい」

自分に聞かせるように大きな声で返事をする。「開けてー」とこもった声が返ってくる。

立ち上がり扉を開けると、d.oが盆にお茶の入ったカップとソーサーを二組乗せ、スホを見上げて立っていた。

「最近兄さんがはまってるハーブティー。俺のも勝手に入れた」

その姿を目に映して、途端にスホはデジャヴに襲われた。すべてが夢なのではないかと思った。

タオはいなくなってなどいない。

中国でなく、いつだってうちの中にいる。

会おうと思えばいつでも会える。

今にもタオが駆けてくる。それ何!?僕の分は!?でかい体をあちこちに振り回してひとしきり騒ぐ。

「兄さん?」

不思議そうな顔で心持ち首を傾げ、d.oがスホのようすを伺う。

上目遣いのd.oと視線を合わせ、スホは微笑む。

「ありがと、ギョンス」

体を横にしてd.oを通す。

一瞬、ドアの外、廊下やダイニングルームへ目を走らせる。誰も走ってきたりはしない。当たり前だ。

ドアを閉め、振り返ると、ふわふわ漂うハーブの香りと湯気が、d.oの体を通り過ぎスホに届く。

床の上に盆を置き、d.oは胡座をかく。

「まだ仕度終わってないんだね」

スーツケースの中身を見ながらd.oはカップを手に取る。

スホはd.oと斜向かいになる格好で床に腰を下ろした「ああ、でもすぐ終わるよ」。

誰がこれを食器類にストックしてくれたのか分からない、イギリス製らしい控えめな花柄のティーカップとソーサーに手を伸ばした。片手にソーサー、もう片手にカップを持つd.oのさまは非常に品が良かった。部屋着に身を包み、裸足で胡座をかいているのに。カップを口に運びながらd.oを眺め、スホはこのメンバーのカメラに愛される力をしみじみと茶とともに体に流し込んだ。このいわく言いがたい人の持つ魅力とは何だろう?スホは自分も撮影を行いながら、自問自答する日々だった。真似ができるタイプのものではないのだ。

腹の中が温かい液体で満ちていく。

目の端にd.oの白目と黒目の境が映る。

「………タオ」

「え?」

「タオから、メールあった」

カチリ、とソーサーとカップのぶつかる音が鳴る。

「…何て?」

目を伏せてd.oが尋ねる。

スホもカップの中を真上から見つめている。

「……会いたいって」

d.oがこちらを見たのをスホは分かった。

「そう」

「うん」

「会うの?」

会う?

また、タオがやって来る。特徴的な笑い声を響かせて、耳たぶのピアスを揺らしながら。

スホをd.oが見ている。その視線を受け止める。

「………そんな哀しい顔しないで」

囁くようにd.oは言う。

哀しい?

おかしい、だってタオはこんなに笑っている。

目を落としたカップの中からは、スホを慰めるようにまだ、絶えず湯気が立ち上っている。

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