海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

グレーゾーン 6

公演は概ね順調にこなされていった。

懸念事項もそこまで大事にならず、スホはその度安堵のため息をついていた。

あと二公演となった夜、スホはタオにメールを送った。

公演にタオが来ているような気がして、客席を眺めながらなんとなく落ち着かない気分でいる自分にほとほと嫌気がさしたのだった。

ごく簡潔な文章になった。

そういう風にしか書けなかった。

送信してすぐ、猛烈な後悔がスホを襲った。ベッドに横になり、思わず頭を抱え体を縮こめる。スホはexoのリーダーになってから、そのストレスが眠るときの体勢に表れた。子宮にいる赤ん坊のような防御の格好を知らぬうちにとっている。周りに指摘され初めて気付いた。そしてそれからは心配をかけないためにも可能な限り体をリラックスさせて眠るように心掛けていた。だが、今また懐かしいそのディフェンスのジェスチャーを無意識に取りながら、スホは目をぐっとつむって、いつ返信が来るだろうと考えた。やはり止めよう、と送ろうかと思った瞬間、メールの到着を告げる音がスホに届いた。

タオからだった。

そのスピードにスホの胸はかき乱された。涙が出そうになり、慌てて瞬きを繰り返す。

文面にはかつてのようなハイテンションさや華やかさはなく、感謝の言葉と、どういう風にいつ会うかの提案がしたためられているだけだった。自分と同じように、何をどう書いていいのか分からないのだろう。スホは別人からのようなメールを見つめて、了解した旨をまた、いっそそっけないと言っていい文章で書き、送った。



最後にタオと顔を会わせたときのことをスホはよく思い出せなかった。

タオがどんな服装でどんなアクセサリーを付けていたのか(あの俺があげたあいつのお気に入りのピアスはどうしていたろう?)、どんな表情でどんな言葉を発したのか(泣いていたのだったろうか?泣き虫なあいつが泣かないことなんて考えられるだろうか?)、自分でも驚くほど霧がかかったような記憶しか残っていなかった。

ひとつ、覚えているのは、スホが胃を喉の奥から引っ張り出されるような感覚を覚え、タオが去ったあとトイレに急いで駆け込んだことだ。嘔吐しながら視界はくらみ、目に溜まった涙を手で拭い、息を荒く吐いていたときの底の見えぬ苦しみ。吐きながらスホは泣いた。顔の穴全てから液体を垂れ流しながら嗚咽をなるべく抑えてスホはうずくまった。それからしばらくまた、スホは繭のように布団の中に丸まり、浅い眠りを連続させる合間に、さまざまなメンバーが自分を気遣いながら見つめたり話し合ったりしているのを感じる夜が続いた。情けなくてまた布団の中で涙が出た。だが自分でも、どうにもできないこともある。

唯一事情を知るd.oに、その夜タオに会いに行くということを、公演直後の着替え中にスホは伝えた。

「これから?」

少し驚いた顔でd.oはスホを見た。

スホがこくりと頷くと、私服のボタンをとめながら、d.oは小声で言う。

「……大丈夫?」

今スホを見つめるd.oの目は、布団にくるまれたスホを見つめる目と同じであると、スホは分かっていた。心臓を手できゅっとつかまれたような、喉が詰まって苦しいような、口を動かすのが難しい。たったひとことでも。

また無言のまま、にこっと微笑んで、スホは首肯した。

もう、d.oにも何も言えなかった。ごく微かに、口の両端を上げて、リーダーを見るのみだった。

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