海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

ふたりでいると 2

ダイニングルームに入ると、見渡す限り誰もいないようだった。キッチンにも。

ベッキョンのあとにチャニョルが続き、ふたりは荷物や上着をソファの上に放り投げた。

その身も投げ出し、ベッキョンは放心の態でソファに体を預けた。

ニット帽を被っていた頭はぺったりとボリュームを失い、それはベッキョンの心を表したかのようだった。ベッキョンは手に持ったニット帽を自分のものがたった今山積みにされた上にまた投げ上げて、そのかさを増やした。

チャニョルはそんなベッキョンのようすを横目に見つつ、キッチンに向かった。

日はもう沈み、窓の外は薄闇に包まれている。

自由時間の多かった日が夜を迎えようとしている。明日はチャニョルは早朝からロケ、ベッキョンは昼前から打ち合わせだった。チャニョルは冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、グラスに注いでひと息に飲んだ。これ、スホ兄さんが高いからあんまたくさん飲むなって言ってたかも。思い出しながらチャニョルはどぶどぶともう一杯注ぎ、ソファに向かった。

ベッキョンの目の焦点が合っていないこと、口が中途半端に開いていることをチャニョルは見て取り、思ったよりも重症のようだと自らの口をへの字に曲げた。

自分の荷物を下に降ろし、チャニョルはベッキョンの隣に座る。

「おい」

コト、とローテーブルにグラスを置く。満たされた野菜ジュースが強くそのオレンジの色を主張している。

「よかったら、飲めよ」

チャニョルが向こうを向いたベッキョンを覗き込んで話し掛ける。

その体はぴくりともせず、「んー」と唸るような音だけが返ってくる。

ベッキョンはやはりひとりになりたいように思った。だが起き上がるのがしんどかった。もうしばらく全身を脱力させて窓の外が完全に暗くなるのだけを目の端に入れていたかった。

「…ベッキョン」

チャニョルの声が後頭部らへんから降ってくる。そのメンバー内でも特に目立つ低音は、どんなときでも完全に聞こえないようにするなど不可能だった。

「おい。大丈夫か?」

本気で心配しているらしい、そして応答がないのとその心配でむしろいらついているらしい声色に、ベッキョンもいらいらした。

「なんだよ、うるさいな、ほっとけよ」

また、振り向きもせずベッキョンは半ば怒鳴った。声量なら負けないベッキョンのその言葉はふたり以外いない部屋の中を反響するようだった。

「うるさいってなんだよ」

チャニョルはベッキョンの腕を軽く小突く。

「…いーから…マジで、ほっといてくれって」

もう力が入らないといった風にひとことひとことの語尾が弱まったベッキョンを見て、確かにこれは放っておくしかなさそうだ、とチャニョルは嘆息した。

「…ジュースじゃなくて、なんかあったかいものの方がいいか?」

優しさのこもった声をチャニョルが掛けるが、しばらくベッキョンは無言だった。チャニョルは立ち上がり自室に引き下がろうとした。

その大きな背中に、すねたような甘えたような声が放られた。

「………ココア飲みたい」

チャニョルが振り向くと、上目遣いの茄子のような頭のベッキョンと目が合った。いたずらしたときの犬のようなそのさまにチャニョルはちょっと笑いそうになった。だがまた怒らせると悪いと、そのおかしみは腹の中だけに収め、「分かったよ」とだけ言った。

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