海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ

こんがり焼けたトーストにバターを塗りながら、チャンミンは今日ジャムを塗るのはやめよう、と思った。ユノからもらったストロベリージャムを、今朝使い切るつもりだった。だが冷蔵庫を覗いているとき鳴った携帯電話の音に動作を中断させられた。その場を離れ、音の方に向かう際、手に持っていたものをテーブルに置いた。バターだけだった。

電話の相手はマネージャーだった。今日の予定の変更を告げられた。昼過ぎに迎えに行く、と言われ、返事を返すか返さないかのうちにもう通話は切られていた。こういうせっかちさと雑さをチャンミンは好まなかった。だが、自分でも不思議だが、マネージャーの彼を大変好きだった。終話ボタンを押すたびに、自分の中のアンビバレンツな気持ちをチャンミンはもてあそんだ。舌打ちしながら微笑む、といった風に。

インスタントコーヒーとボイルドエッグ、焼いたベーコンを、バターを塗ったパンとともにテーブルに置いた。

すべての料理から温かな湯気が絵を描くように天に向かって消えていった。

エッグスタンドに立てた卵のてっぺんをスプーンの背でコンコン叩きながら、こんなに早く起きなければよかった、とチャンミンは後悔した。

開いたカーテンの向こうは気持ちよさそうに晴れ渡った空が拡がり、チャンミンのそんな思惑をあざ笑うかのようだった。

まあ、いいか。穴を開けた卵の中の、濃い黄色をすくい上げ、分厚い唇の隙間に滑り込ませる。上唇がその色に染まり、舌で舐め取る。がさり、と音を立ててパンに歯を入れる。舌には香ばしいバターの味しかなく、昨日までの甘味と酸味を覚えた体は、一瞬こんなはずじゃ、という驚きで満ちる。しかしすぐに思い直す。まだ、一回分だけ、残っている。あれは明日のお楽しみだ。

濃く淹れたコーヒーの苦味を喉へと落としながら、シャワーを浴びてからどうしようかとチャンミンは逡巡する。

窓の外の光に目を向けるたび、手招きをされているような感覚がチャンミンを包む。諦めのようにチャンミンは思う。着替えたら少し出よう。どこに行くかは外で決めてもいい。光合成の必要をチャンミンは感じた。もちろん植物ではないチャンミンだが、日光を浴び、自分の中の葉緑体が全身を勢いよく流れていくのを感じたい、と願う気持ちを植物のように持つことは、動物だってできるのだ。それは想像力のなせる技だ。

チャンミンは朝食を食べ終えると、鼻歌を歌いながら食器を片付けた。最近のお気に入りはサム・スミスだ。自分の声に合っていると思うし、単純に好きだった。鼻にかかった声質はかなり似ているところがある、とチャンミンは冷静に考えながら、食器の泡を優しく流し、かなり本気でろうろうと、マイ・フェイバリットを歌い上げた。

iPodの充電が満足なものだったか、ふと、気にかかる。

水を止め、入浴の前に充電しておこう、とチャンミンは思った。

充電のセットを済ませ、浴室に向かいながら、今朝、ユノは何をして昼まで過ごすのだろう、とぼんやり考えた。着ていたパジャマと部屋着兼用のスウェットを脱ぎ、カゴに放り込むと、上着の胸に赤いシミがあるのを目の端が捉えた。手に取って匂いを嗅ぐと、思った通りの苺の香りだ。ああ、明日で食べ切ってしまうんだ。チャンミンは先程と打って変わってその事実が哀しいものとして自分の中に拡がるのを迎えた。そうだ、ジャムを買いに行くか。チャンミンはシミ取り用洗剤をスウェットのジャムの箇所に付け、浴室のドアを勢いよく開いた。

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