海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 4

「なんかあった?」

ベッドに並んで横たわり、お互い天井を仰ぎながら、チェンはギョンスにぽつりと尋ねた。

ふたりの胸は、先程までの余韻を残し、短いサイクルで上下していた。

チェンの胸の方のみ、そこここが赤く染まり、その色は自らの体温によるものだけでない濃さを示し、少しの紫が混じってもいた。横に寝そべる男の仕業だった。その、吸う、強さときたら。チェンは痛痒いような胸のあたりを手で軽く引っ掻いた。 返事のないギョンスを首を横に向けチェンは見た。枕に頭を預けたギョンスは、首を傾け、チェンの視線を受け止めた。まだ濡れている髪が額に掛かり、肌の上の汗を含んで先に雫ができている。ごく近くにあるその眉と黒目の濃さに、チェンはうっとりしてしまわないよう心の中で自分を律した。

「何もないよ」

ざらりとした質感を伴った囁きをギョンスはチェンの瞳を覗きながら発する。

「そう?」

「うん」

言いながら、ギョンスは両腕を自分の頭の下に差し込み、チェンに体ごと向いた。チェンも同じようにする。鼻が触れ合いそうな距離で見つめ合い、チェンは無意識に眉が八を描く。ギョンスを見ると今だに、ただ、切なくなった。恋というほかない感情がチェンの胸を締め付け、歌どころか声も出せなくさせる。

「ジョンデ」

子供が懸命に丸を描こうとしたような唇から自分の名が呼ばれる。

今度はチェンの声が枯れていた。

「うん?」

笑顔だけは作ろうと唇の両端は常以上に上げた。

「好きだよ」

その全身に響かせるように発声された言葉は、こんな至近距離にも関わらずチェンに正確に届くのに時間を要した。

作った笑顔は消えていた。下げた眉尻は残っていた。

固まったチェンを見つめながらギョンスは、ふたりの間の隙間を埋め、相手の唇にそっと、触れるだけのキスをした。目は閉じぬまま。

目と目だけが相互に見えた。

「…どして、いきなり」

それだけが口をついて出た。

何も準備されていなかった。こういったことに対して。

自分が少し、震えていることにチェンは気付いていた。怖かった。度がすぎたものは恐怖だった。たとえそれが幸福でも。

「言ってなかったなと思って」

なんてことないようにギョンスは言う。いつもこうだ。チェンはギョンスに翻弄される。当然のこととして。

「お前は?」

素朴な質問をギョンスは投げ掛ける。

目しか見えない相手のその視線のまっすぐさに逃げ場はない。

「………好き、だよ」

今更。

一点に留まるギョンスの瞳に対して、チェンのそれは揺らめいていた。心の揺れがそのまま出ていた。言葉に、してしまった。

突然ギョンスがぱあっと笑った。

「知ってる」

そう言うと、チェンの耳の上に手を置いた。

チェンは言いようのない感情が湧き上がって途端に自分を占拠するのを感じた。

耳に触れたギョンスの手の温かみと、その笑顔、声。

自分は死ぬのかもしれない、とチェンは本気で思った。

「…………死にそう」

口に出してみた。

「ああ、このままでいて風邪引いてこじらせたら死ぬかもな。また風呂入んなきゃ」

言いながらむっくり起き上がり、拍子抜けしたチェンが目を見開いているのをギョンスは振り向き、言う。

「一緒に入るか?こっそり」

片方の口角だけ上げて笑うギョンスを、チェンは枕で殴った。胸まで赤くして。

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