海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 2

「ジャム?」

メイクをされながら、ユノは鏡越しに聞き返した。チャンミンはメイクを既に終え、椅子に座ってテーブルの上にあった雑誌をぱらぱらめくっている。

「うん。前、くれたでしょ」

視線を宙に浮かせて記憶を辿り、ユノは「ああ」と呟く。

「苺のか?」

「そう」

「あれなー、ファンからもらったのだったよな。なんか有名な高いやつ」

「うん、確かに高そうでした」

「俺食べ過ぎると悪いと思ってさ。それでみんなに配ったんだよな」

「美味しかったですよ、高いだけあってか」

「そうだったなあ。俺数回で食べ切ったもん」

「早すぎですよそれ」

「だから配ったんだろ」

ふたりで軽く笑うと、メイク担当の女性が「おとと」と言って手を浮かせたのを見、ユノは「ごめん」と口を閉じた。目と口の端でまだ笑っているユノをチャンミンは鏡の中で見る。自分もまた同じようにさりげなく笑っていた。

「はい、できましたー」

女性が去り、ユノはぱっと立ち上がって自分を覗き込んだ。エラのあたりにできた吹き出物をその細長い人差し指で触ってみている。チャンミンからの位置ではほぼ完璧に隠されているように見えた。顔や髪をさまざまな角度から確認し終え、ユノはチャンミンの方にやって来た。

「もう着替えたんだな」チャンミンを見下ろしてユノは言う「それ似合ってんじゃん」。

雑誌から目を離さずチャンミンは答える。

「僕なんでも似合うから」

「お前なー」

ユノはチャンミンの肩を軽く小突いた。抵抗せず体を揺らし、視線はそのままチャンミンはにやりと笑う。

準備された衣装に着替えに、ユノは服が並ぶラックに向かった。スタイリストと話しながら、コンセプトと本人の着こなしの擦り合わせを行っている。今日は春がテーマだ。日本ならグレーがかった淡い色味が主体になるだろう、チャンミンは考える。韓国の春は、もっとぱきっとしたビビッドカラーを取り入れる。チャンミンは今日黄色いパンツだ。はっきり言ってこの黄色はあまり好きじゃなかった。上に着たシャツの派手な柄も。でも、確かに、似合ってはいた。チャンミンは似合わない髪型やファッションがあまりなかった。自分のそういうところを気に入っていたし、仕事上とても助かった。そこまで着飾ることに夢中になれない性質の自分には、見た目に頭を悩ませ過ぎることがないのはありがたかった。

ユノは逆に似合う髪型やファッションが多岐に渡るとは言い難かった。体型が若い頃と変わってきてからは、服のシルエットを特に気にした。だが、ユノのそういったこだわりは悪くない、とチャンミンは思っていた。プロフェッショナルだなと感心すらした。自分の無頓着さがこの仕事には有効でないと自覚するだけの賢さをチャンミンはもちろん持っていた。だが、それも自分なのだ。手元の雑誌の中のあらゆる格好のモデルたちも、特別チャンミンの気を引かなかった。

「チャンミン」

呼び掛けられ、振り向く。

衣装に身を包んだ声の主は、にっこり笑ってマネキンのようなポーズを取って立っている。まあ、なかなかいいんじゃない、とチャンミンは心中呟きながら、「僕の方がかっこいい」と実際には言った。雑誌を閉じて、テーブルに置く。

俺だって悪くないだろー?と鏡に向かってぶつぶつ零すユノに向かい、いたずらっぽく笑って、言う。

「痩せて見えるよ」

「マジ?」

「ほんとほんと」

本当に嬉しそうな鏡の中のユノの顔に吹き出してしまいそうになるのを、チャンミンはなんとかこらえ、ペットボトルの茶を飲んだ。

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