海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

ふたりでいると 3

ほら、という言葉とともに、ベッキョンのマグカップがテーブルに置かれた。グレーのマットな質感の、下に向かってふっくらラウンドしたその中は、湯気を立てたココアがたっぷり入っている。

「ギョンスが純ココアしか買ってなかったから、砂糖入れたけど、足りないかもしんねー」

言いながら、チャニョルは再び先刻と同じ場所にどさりと腰を下ろした。

ベッキョンは右下を横にしていた体を仰向け、腰がずり落ちた格好のまま、テーブルの上のココアを見た。腕の下にクッションを挟み、小さく「サンキュー」と言う。

ふわりふわりと登る湯気を見ているのか見ていないのかも、隣に座るチャニョルにはよくは分からなかった。

「おいー」

チャニョルは試しに話し掛けた。また、自分の中に沈み込み、返事もしなくなってしまったかを確認した。

「なにー」

返答があったので、チャニョルは先を続けた。

「…彼女と喧嘩したかー?」

無反応。

チャニョルはソファの上に脚をすべて乗せ、ベッキョンの方に向かって体育座りのような格好を取った。

ベッキョンの横顔は微動だにしない。

ビンゴだな、とチャニョルは思った。あーあ。しかもこれはかなりやばいやつだ。

「…そうなんだなー?」

また、無反応。

どうしたもんかな、とチャニョルは思案しながら、ベッキョンからマグカップに視線を移した。

「とりあえず飲めよ。冷めるぞ」

おもむろに、ごくゆっくりとした動きでベッキョンはカップを手に取った。

口元に持って行き、両手で包み込む。

言葉は返さないが、チャニョルの言うことに従うというかたちで返すベッキョンを見て、チャニョルは呆れると同時になんだか切なくなった。

薄い唇をカップの縁に付け、「あち」と声を出す。

「気を付けろ」

思わず子供を世話しているような気分でチャニョルは注意した。

そろそろとココアをすするベッキョンを見つめながら、別れたのかな、とチャニョルは推察を始めた。これだけ荒れたようすだと、可能性は高そうだ。

華奢で美しい指をすべて一箇所に集め、湯気に肌を染め、背を丸めたベッキョンは、友達と喧嘩をして帰った小学生のような風情があった。母親っていうのはこんな気持ちなのかな、と男の身で考えながら、ベッキョンの体が中から温まるまでまず待つか、と決めた。

「にげー」

ベッキョンが呟く。顔をしかめ、口の両端を下げて。

チャニョルはため息をつき、砂糖を取りにキッチンへ向かった。

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