海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 6

1月14日。

カイの誕生日がやって来た。

夜、メンバーやスタッフなど、大勢で創作イタリアンへ行き、カイには特別に店にオーダーした、鶏肉を揚げたものを特製のタレで和えた新作が大量に供された。それがいたく気に入ったカイは、ほとんどすべてを自分の胃に納め、いつまでもべとつく指をひっきりなしにしゃぶっていた。社長からかなりいいワインが皆で飲むようにと数本贈られていた。日頃メンバーは揃ってあまり飲まないようにしていた。体型や喉、肌や体力に影響するからだ。しかし今日は特別な日だ。社長から直々にお許しが出たも同然の今、飲まないわけがなかった。ビール、ウイスキー、もちろんワイン。それぞれが好きなものをかなりしこたま飲んだ。最後に上で花火が散りながらケーキが出てきたときは、皆べろべろだった。うおーというほとんど男性で占められたひと部屋は地鳴りのような歓声が轟き、次いでハッピーバースデイの大合唱が始まった。

顔を真っ赤にした面々に負けず劣らず真っ赤な顔のカイは、幸せそうにケーキの火を吹き消した。

拍手に包まれる中、ギョンスも手を叩きながら、複雑な気持ちがアルコールの力も借りて霧散していくのを嬉しく感じていた。

満面の笑みを浮かべるカイを見つめていても、フラッシュバックとともに顔を背けたくなる衝動は起こらなかった。自然と自分も笑みを漏らしていた。何も知らないチェンは首まで赤くし、カイの首に腕を絡めて「おめれとー!おめれとー!愛してるぞ!」とほぼ叫んでいる。きっとあれは乳首の下まで染まっているぞ、とギョンスはさすがに胸の痛みを感じながら苦笑した。

会がお開きになり、皆数台のタクシーに分かれて帰途に着いた。

マンションに着くなり全員なだれ込むようにして各々のベッドに向かう。仕事の疲れと酔いですぐにあちこちから高いびきが部屋の外まで漏れてきた。


深夜。もうすぐ、朝と呼んでも差し支えない時間になる。

ギョンスは喉が渇いて目が覚めた。

他の者ほど飲んでいなかったため、そこまでの気持ち悪さを覚えず、ただ水が飲みたい、と思いながらギョンスはベッドを出た。

キッチンのみの灯りを灯し、冷蔵庫のミネラルウォーターをグラスに注いで、ごくごくと音を立てて飲み干した。生き返るようだった。もう一度寝よう、と踵を返すと、薄暗い中に、誰かが立っていた。

「わっ」

思わずギョンスは声を上げた。

灯りの届かない薄闇に立っているのは、よく見ると、カイであった。

それはパフォーマンス時の演出のようだった。

灯りの中に一歩、カイは足を進めた。目のあまりよくないギョンスでも、カイのようすがまた、常と違うのを察知できるような、そんな動きであった。ギョンスは背筋が泡立った。ある種の身の危険を感じた。それは幼い頃から今日に至るまで、たまに遭遇する種類の危険だった。たいていの男には関係ない、そしてたいていの女には身に覚えのある、そんな危険。ギョンスは大多数の男とは違い、ときどきそういう目で見られることを感じることがあった。子供の頃は戸惑ったし、恐れもした。だが、成長するにつれその性格から、そういう対象にされ、あまつさえ痴漢行為に発展したときなどは実力行使に出た。本来ぶん殴るだけでは気の済まないことだった。

しかし。

今、目の前に立っているのは知らないどこかの親父ではない。

可愛がってきた弟分だ。

一度、手を愛でるだけは許した。

だがそれっきりと言い渡した。

そんな約束についてのまともな話し合いなど、このカイにはできそうになかった。

顔を赤くしたまま、目も充血していた。唇はおそらくフライの油だろう、メイクをしたようにぬらぬら光っている。その目の座り方と、唇の開き方。今にもよだれを垂らしそうだった。

ギョンスは心拍数がステージ前よりも上がった。しかもこれには悪寒も混じっていた。

「…ジョンイン」

できるだけ冷静な声を出そうと、努めた。

カイは返事もしなかった。ただもう一歩、ギョンスに近付いた。裸足の足の爪が、照明を受けて光った。

ギョンスはシンクを背に立っていた。手をその縁にかけ、少しだけ後ずさった。本当は逃げ出したかった。だが、カイの方に行くのだけでも恐ろしかった。

すると、カイは緩慢な動きから、突如スイッチが入ったように、すたすたとギョンスの方に歩いて来た。ギョンスは虚を突かれ、棒立ちのままだった。

カイはギョンスの真正面に立った。そしてギョンスを見下ろした。ギョンスは、カイを、丸い黒目で、見上げた。

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