海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 4

コン!

と音を立てて、テーブルの上に透明なビニールに包まれ、フューシャピンクのリボンが結わえられたストロベリージャムの瓶が置かれた。

「これ、やるよ」

夜。

居酒屋の個室に、チャンミンはミノといた。

もともと今日は約束をしていた。だいぶ夜も深くなってから、ふたりで食事をしにいつも来るこの店に腰を落ち着けた。

居酒屋だが、時間的にも明日以降の仕事的にもアルコールを控えているふたりは、それぞれジンジャーエールとウーロン茶を飲んでいた。

なので完全に素面でミノは、サラダや白飯や漬物やスープなんかが並んだ中に、ものすごい存在感を発揮するスウィートなルックスの、そして文字通りの甘味を、大きな黒い目でじっと見つめた。

「なんですか、これ」

「見りゃ分かんだろ、ジャムだよ」

「…なんかホワイトデーのお返しみたいになってますけど。僕バレンタインにあげてないですよね、何も」

「なんでお前からバレンタインもらうんだよ。そういうネタもういいから」

「ファンからもらったとか?」ミノは瓶を手に取った「あ、フランス製じゃないですか」。

ぱりぱり、とビニールの音を鳴らして、ミノは瓶を回しながらまじまじ観察している。常に瞳孔が開いているような独特な眼差しと、何故だか口元に浮かぶ微妙な笑みを見て、チャンミンはスープをすすった。

「あんまり食べないか?そういうの」

まだじっくりジャムに目を注ぐミノに、チャンミンは問う。

「そうですねえ。でももらいます。嬉しいですよ」

そう言って自分の鞄にがさりがさりと大きな音を出しながらしまい込む。

「ありがとうございます」

言いながらぺこ、と頭を下げ、目尻を垂らして微笑むミノは、チャンミンにとっては確かに一番心和む相手かも知れなかった。彼はいつも穏やかで鷹揚で、ものごとをフラットな目で捉え、ひねくれたところがなかった。こういうものをたとえ贈ったところで変な邪推もからかいもしなかった。ジャムをふたつ買ってよかったとすらチャンミンは思った。

「うまいかは分かんないよ」

「そうなんですか?」

「俺も食べたことはないから」

「でも、こういうのってそんなにまずいとかないんじゃないですか」

「まあ、そうだな。フランス産だし」

「フランス産ですしね」

そしてしばらく黙々と箸とスプーンを進める。

「ユノ兄さんが合コンしたってさ、昨日」

ジンジャーエールで喉を潤し、ひと息ついてチャンミンは言う。

「あ、そうなんですか?」

ミノが立体的に膨らんだ唇を光らせ、口の中のものを飲み込み、答える。

「うん、全然うまくいかなかったっぽいけど」

軽く笑って、チャンミンは言う。

「あー。まあ簡単にはねえ。それは残念でしたねえ」

「んー。なあ。そろそろ彼女できてもいいんじゃないかと思うんだけどな。かなり真面目に」

漬物のカスを皿から拾い、口に運びながら、チャンミンは零す。

「自分だってでしょ」

ミノは笑いながら言う。

「お前もな」

チャンミンは肘でミノを軽く小突く。

へへ、と笑って、ミノは言う。

「なかなか僕たちの仕事はするっと話が進みにくいですからねえ」

「そんなの言い訳だろ」

「まあそうですけど。チャンミン兄さんの場合は人見知りっていうかかっこつけの方がネックですよね」

ごくあっさりと正直さを発揮してミノはチャンミンをやり込める。

「お前な。殴られたいのか」

「殴られたくはないです。でも、さっきのジャムだってちょっといいなって思ってる子とかにあげればよかったのに、僕なんかに回しちゃって」

「じゃあ返せ。あれ」

「もうもらったんで。僕のものです」

あははーと顔を溶かすように甘い笑顔を浮かべるミノの顔を眺めて、あービール飲みたい、と思いながら、チャンミンはジンジャーエールを飲み干した。

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