海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 7

カイはかすかに揺れていた。

開いた口からはアルコールと油の匂いが漂い、至近距離で嗅いだギョンスは、鼻につくそれらに顔をしかめそうになる。

その目はぼうっとしてはいるがギョンスの目からは動かなかった。

また、名前を呼ぼうとしたそのとき、カイが、動いた。

長い腕をギョンスの背に回し、力を込め、自分に密着させる。

ギョンスは顎をなんとか相手の首の上に乗せ、起きた事象をまず、受け止めた。

頬にカイの首が当たる。その熱が、背中の両腕からも、伝わってくる。

ぐうっと、より、強く抱き締められ、ギョンスは胸苦しさを感じ、息を荒くした。

「………………い」

耳元で、何かが聞こえた。

ギョンスは驚き、聞き返す。

「な、に?」

「……………みず、のみたい」

全身から力が抜けた。本当に、ギョンスは安堵した。なんだ。ただ、甘えているだけか。

「分かった、分かったから、離せ」

おとなしく、カイはギョンスを解放した。

ギョンスは急いで冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、先程自分が使ったグラスに勢いよく水を注いだ。

シンクに寄り掛かったカイに、その冷えたグラスを差し出すと、ゆっくりと受け取り、そのまま口に運んだ。美しいラインを描いて上下する喉仏を眺めながら、自分の浅はかさをギョンスは恥じた。

少しだけ底に残し、カイはグラスを置く。

「ほら、もう、寝よう」

微笑んで、手で招きながら、ギョンスは言った。

カイがもたれたままギョンスを横目で見た。上気した頬と目元が、うつろなその目を取り囲み、ギョンスの言ったことを理解しているかどうか分からないことをギョンスに伝えた。

ギョンスはカイに近寄り、その手を取った。

「ほら、まだ寝てる時間だ。眠いだろ。気持ちは悪くないか?」

首を振るカイに、苦笑してギョンスは続ける。

「じゃあ、ベッド行こう。な?」

見上げて覗き込むギョンスの顔を見返しながら、カイは口を開いた。

「………いっしょに、ねたい」

目を擦り、赤ん坊のように、むにゃむにゃと言う。

ギョンスは、先刻の恐怖と疑念、その後のカイの甘えという結論が頭の中でくるくると回り始めた。

「…なに、甘えてんだ。子供みたいに。また、ひとつ年取ったんだぞ」

話を軽くしようと、笑いさえ交えてギョンスは言った。

「…………だって、ジョンデ兄さんとはねてるでしょ」

カイの手を取った手の先から、魔法にかけられたように一瞬で全身が固まったのがギョンスは分かった。

血の気が引いた。

「………………俺、知ってるもん」

何か、言わなければ。否定しなければ。だが、視線を落としてただ自分を追い詰めてくるカイを前に、目を見開いて立ち尽くすことしかできない。

「……………………俺とごはん行った日、いっしょにお風呂入ってたのも」

どくん。

ギョンスは動悸が自分を中から壊すのではないかと思った。

カイから手を離し、ギョンスは体が震えるのを抑えようと片手でもう片方の腕を掴んだ。なるべくしっかりと、ギョンスはやっと、声を出した。

「…なに、言ってんだよ。何言ってるんだか、分かんないよ」

けふ、と漏らして、カイは言う。

「ごまかしたって、だめだよ……。俺、ずっと、知ってたんだもん」

俯いて、カイは自分の足を見る。

ずっと?

ギョンスは思いもかけない言葉の連続に本気で気が遠くなった。

カメラが寄りながらズームアウトする画面のように、まわりのいっさいから切り離されていく感覚を、ギョンスは初めて味わった。

「…お前の、勘違いだよ」

「………音楽かけながら、やってんでしょ」

血が、顔に登る。耳の先まで赤くなる。ギョンスは羞恥と屈辱を感じ、喉がまた、渇いた。

「…………知ってるんだ」

そう言い、カイは顔を上げ、ギョンスを見る。

その顔と同様に、今は、ギョンスの顔もまた、染まっている。

ふたりは睨み合うように、お互いを見た。

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