海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 8

目と目を合わせる苦痛に、ギョンスは先に屈した。

「…音楽聴いてるだけだよ」

斜め下に目を伏せて、自分でも説得力を欠いたようすだろうなと想像しながら、ギョンスは否定を続けた。こんなとき、自分でも驚くほど仕事で行う演技というものができなくなるのだなとギョンスは深く絶望と自己嫌悪をどこか別に感じてもいた。

「そんな嘘いらないよ……」

カイは額をぼりぼり掻き、ため息をつく。

そんなカイに向かって、はっきりとした声が飛んできた。

「とにかく、お前の今言ったことは全部間違ってる。お前の思い込みだよ。このことは忘れてやるから、もう二度と言うな」

その声にカイは虚を突かれた表情を浮かべ、口を閉じる。

カイの余裕ぶった態度にギョンスは怒りに駆られ、彼を説得し、誤解だと了解させ、話を丸く収めようという気がなくなった。言い捨てて去ってももう構わないと思った。

部屋へ戻ろうと体を振り向けようとすると、

「待ってよ」

と甘えたような拗ねたような声が追ってきた。

ギョンスがほとんど目だけで冷たく振り向くと、カイがわずかに慌てたようなさまで、言う。

「…………みんなに、言うよ?」

その言葉がまさか出てくることを、ギョンスは本当には心配していなかった。そんな自分がかわいそうになるほど、ギョンスはカイが自分を脅したという事実に打ちのめされた。顎が震えそうになるのを拳を握り締め、耐え、答えた。

「……………言えよ。誰も信じない」

ぎらぎらと光る横目で見据えられ、カイはちらちらとギョンスを伺うように見ながら、

「…わかんないじゃん」

と食い下がる。

ギョンスの反撃にカイは予想を裏切られたらしく、その態は完全に蛇ににらまれた蛙だった。

「……お前のどうしようもないたわごとなんか、誰も聞かない。俺だってもし、そのことについて聞かれたら余裕で完璧に否定するし、ジョンデは笑うだろうな。お前は馬鹿扱いされて終わりだよ」

低い声を荒げるでもなく抑揚なく発するギョンスは、しかし全身でカイを攻撃していた。そのジェスチャーにカイは音を上げた。

「………ごめん、お、こんないでよ」

泣きそうですらある声音で、視線を落とし口を尖らせてカイは謝る。

「怒らないわけないだろ、こんなこと言われて。殴られてないだけありがたいと思え」

叱られた幼児のような態度のカイに神経を逆撫でされながら、ギョンスは言い放った。

体の向きに顔を戻して、また、ギョンスは立ち去ろうと足を進めた。

すると、追ってきたカイに腕を後ろから取られた。

びくりと体を跳ねさせ、ギョンスはしかたなく振り仰ぐ。

カイの赤い顔が、眉を寄せて自分を見下ろしていた。

ギョンスはチェンにこういう顔で見られることを愛していた。

だが、この男からのそれは願い下げだった。

「………なんだよ」

なるべく声を抑え、感情を込めずギョンスは目を見つめたまま、問うた。

カイは必死に目を逸らさないよう努め、口をわなわなさせて、言う。

「………おこんないで。……………だれにも、いったり、しないから………」

ギョンスは大きく息をつき、目線を落とす。

「…だから、なんもないっつってんだろ」

吐き捨てるように言うと、カイはそれでも続けた。

「………だれにも………言わないよ………秘密にする。だから」

ギョンスは目を上げ、再びカイを見た。

「また………兄さんに、………触らせてよ……」

ギョンスの目にさらされ続けられず、カイはとうとう下を向いた。ギョンスの腕をぎゅっと、握ったまま。その手に力が込められる。皮膚から湿り気が伝わる。ギョンスは掴まれたところから自分の体が浸食され、何かの病魔に冒されるかのような妄想が頭を支配した。

時計の秒針の音と、冷蔵庫のブーン、という音が、ギョンスの耳をついて、離れない。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。