海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

人さらいの条件 9

繋がった部分の熱さと強さと湿気が、ギョンスの不快感を煽り、カイの要求に対する返答をするのさえギョンスは我慢ならない思いだった。

今、カイの顔を見るのも嫌だった。

その声で更に何かを求められるのも。

ギョンスはカイに向かって体の側面を見せ、視線を落とし、押し殺した声で言う。

「…あれっきりだって、言っただろ」

カイもギョンスを見なかった。お互い、そっぽを向いて、会話した。

「…………俺、そんなの、うんって言ってないもん」

目だけをきょろきょろ動かし、それでもカイを見ることはせず、ギョンスは拳を作って言葉を発する。

「おま…」

「………こないだみたいに、するから。……なんも、変なことしなかったでしょ」

「やだっつってんだよ」

「…………証拠があるんだよ」

さすがに、とうとう、ギョンスはカイを振り向いた。

カイも、反応を伺うように、ギョンスを上目で見た。

「………証拠………?」

「…うん。ふたりが付き合ってるって、証拠だよ」

「なんだよ、それ……」

「……内緒」

「お前っ……」

勢いよくカイに向き直った拍子に、その手がギョンスの腕から離れた。

ギョンスは掴まれ続けたその箇所が、じんじん痺れるようだった。

頭の中が沸騰し、混乱した。チェンの顔が浮かんだ。今後のすべてが真っ暗になった。

切り札を出したカイは今、すっかり落ち着いていた。自分に形勢が向いたことを理解し、更に、ギョンスを仕掛けた罠の中に、完全に取り込もうとした。

「……だから、触らせてくれたら、教えるよ……」

怒りと困惑で目を光らせ、揺らしながらギョンスはカイを見、カイは自らの願望を叶えるために邁進する、欲望を膨らませた目でギョンスを見た。

触らせる?

また?

こんな風に言うことを聞かされて?

前回はプレゼント。

今回は情事の証拠。

一度恐喝を飲んでしまったら、何度も何度も繰り返されるというのは真実なのだ。人間の欲はきりがない。目前に立つこんなにも親しい家族のような存在に、ギョンスは押し潰されるように教えられている。

飲まないわけに行くだろうか?

カイが本当に何か自分たちの関係を示すものを持っていて、それを誰かに見せてしまったら?

皆、以前とはまったく違う目で自分たちを見るだろう。

関係を続けられる可能性も絶望的だ。

チェン。

チェンは、きっと、信じられぬほど苦しむだろう。

ギョンスはチェンが自分のことを大変強く思っていることを知っていた。チェンは恋人をそれなりに好き、ということができない人間だった。見た目から分かる以上に全身全霊で相手を愛した。感受性の強いギョンスはそれが手に取るように分かった。そんなチェンを、そんなチェンだから、ギョンスは愛した。胸の内にある気持ちのほんの少ししか相手に伝えられないチェンの不器用さを、ギョンスは本当に愛しく思っていた。それに足をすくわれるほどに。

「…………触るって、どこをだよ」

カイの爪先を見つめて、ギョンスは呟いた。わずかに、爪が伸びている。切るように、言わないと。

カイもまた、ギョンスの足を見つめていた。その、裸足の、足を。

「…………足…………」

欲望の渦の中に放り込まれ、ギョンスは一寸先、自分の足が、地面から離され、自らで立てなくさせられるのを想像し、体が冷えていくのを感じた。

そうだ、暖房もつけていなかった。

フローリングの冷たさが足から這い上がる以上に、ギョンスは内から温かみというものが失われていく。

カイに、自分がどんどん、さらわれていく。

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