海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 6

練習室に朝、やって来たときから、その日ユノは変だった。

元気にドアを開け、スタッフやダンサー仲間に親しみを込めて挨拶していくのは確かに同じだ。チャンミンに対しても。

だがチャンミンは気付いたし、付き合いの長いそこにいたメンバーたちも気付いていた。

ユノは元気と言えば元気だった。だが、それは“振り”だった。

体調がすぐれないときや、仕事がある種の危機に陥ったとき。そういったときのユノの空元気のさまを、皆の目の前でまた、ユノは演じていた。

こういう場合、チャンミンが何があったのかを尋ねる役であることは暗黙の了解であった。チャンミンは嫌だったが、もともとそういうことに気を使い続けるのが性に合わない性格が、その役目を担う後押しをした。

サングラスとマスクを取り、ユノはストレッチを始めようとしていた。チャンミンは床に座り込んで開脚したユノに近寄った。こちらに背を向けたユノのそばに行き、そっと上から覗き込むと、その顔は常と同じく顔のラインのそこここにニキビができ、髭剃りの荒さによって口の周りは若干青みがかっている。そして常と違うのは、顔色が悪く、目の輝きは失せ、具合が悪そうと言っていいようすであることだった。

「兄さん?」

チャンミンはもう既に風邪か何かだろうと決めてかかっていた。しかもかなり悪性かもしれないと踏んでいた。

ほぼ真上と言っていい位置にいたにも関わらず、それまでユノはまったく気付かなかったという態度で、驚いてチャンミンを見上げた。

「びっくりした。何?」

「具合、悪いの?」

チャンミンは膝に手を着き、ユノの顔に顔をなるたけ近付けた。その目はやはりとろんと焦点を結ぶ強さを欠き、チャンミンを見ながらまったく違うものを見ているかのようだった。

「悪くないよー」

力なく微笑み、ユノは言う。

「いや、悪いでしょ」

反論しながらチャンミンは腰を下ろした。

「顔色悪いよ。みんな気付いてる」

「そう?」壁一面に貼られた鏡を振り向き、頬に手を添え自分をまじまじと眺める。「そんなことないんじゃね?」

「あるよ」

チャンミンは呆れて食い下がる。

「そう?」

ユノはチャンミンに向き直り、また、微笑む。

「でも、大丈夫だよ。俺、全然平気。元気だもん」

「……どしたんですか」

何か引っかかるものを感じ、チャンミンは先刻までの自分の考えを改める気になった。これは、おそらく、突っ込んで話を聞かないと分からない原因がある、 と長く密接な関係をもとにしたかなり真実に近い予想をチャンミンは立てた。こういう顔をし、こういう返答をするユノを見るのは覚えているだけでも数回しかなかった。

「なんもないよー」

へらへらと笑い、演じきれていると思い込んでいる兄貴分と顔を突き合わせながら、チャンミンは思案した。

「今日、昼休憩、一緒に外食べに行こう。ふたりだけで」

断固とした口調でチャンミンは言う。

ユノはなんでもないことのように、「うん、いいよ」とまだ笑みは消さぬまま答え、床に上半身をぺたり、とくっつけた。

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