海の底、森の奥

EXO、東方神起に関する小説など書いています。
お友達を作れたりしたらなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

食べよ、歌えよ、恋せよ 7

「で?何があったんですか?」

向かいに座ったユノに、注文を終えた途端チャンミンは尋ねた。

ユノは汗をかいたグラスに手を伸ばし、長い指を周りにまとわせて、ただ掴んでいる。注がれた水の表面に目を落とし、口元には何故か笑みのようなものが浮かんでいるのが、チャンミンには不可解だった。

「兄さん?」

ふたりは少し長めに休憩を取り、落ち着いて話せる場所、と考えたチャンミンが決めた、ときどき食べに来る個室風の間取りを備えた定食屋に、わざわざチャンミンの運転する車でやって来た。

チャンミンはことによったら今日はこれで仕事には戻らないことになるかもしれないと予想していた。少なくとも、ユノは帰した方がいい、と決めていた。

ようやくグラスを口に運んだユノは、していたマスクを下げて水を含んだ。その姿は風邪っぴきかインフルエンザ患者にしか、チャンミンには見えなかった。

「言いたくないの?」

優しく、チャンミンは追及した。

弱ったユノはチャンミンの哀れを誘った。仕事に疲れたお父さんといった風情があった。

グラスをトッ、とテーブルに置き、ユノはチャンミンと目を合わせた。

マスクを顎に引っ掛けたその顔は、滑稽さと切実さが混ざり合い、チャンミンの眉を漢字の八にいざなった。

「そんな顔すんなよ」

ふっと、弱く微笑んでユノはチャンミンに言う。

チャンミンは胸のあたりがわずかにざわざわする感じを退けようと、脚を組んで上半身を乗り出した。

「心配してんですよ」

「…ごめん」

「謝んなくてもいーです。ただ、もし、僕に言えることなら。特に、僕に関係することなら、教えて欲しいと思ってるだけだよ」

「ほんとになー…」ユノは自分の首をぼりぼりと掻いた。「こんなつもりじゃなかったんだよー…」

そのままユノは手を首に置いた格好で、俯いてしまった。

チャンミンはかなり本気で憂慮し始めた。何かの病気にかかったか、もしくは。さまざまな想像がチャンミンの回転の速い頭に浮かんでは消えをとんでもない数繰り返した。 おもむろに、視線をテーブルの水滴が落ちたところに置きながら、ユノは口を開いた。少しだけまた、微笑を浮かべて。

「……………………付き合ってる人が、いるんだよ」

言葉の意味を飲み込むのに、数秒、チャンミンにしては相当長い時間が、かかった。

次の瞬間、ユノはチャンミンにお手拭きを投げ付けられていた。

「………何、そんな、病人みたいに………」

朝から今までの自分を殴りたい思いでチャンミンはユノを見た。ユノはでへへ、と言わんばかりの顔で上目でチャンミンを見返し、「ごめん」と言う。

チャンミンは呆れ返って大きな目を更に見開き、ぱちぱちと瞬きを繰り返しながらユノに食ってかかった。

「なんなんですか。みんなかなり心配してますよ。僕だってそうだし。それくらいようす変だったんですよ、兄さんは。なんですかそれで、彼女できたって。馬鹿言わないでくださいよ」

口角泡を飛ばす勢いでチャンミンはひと息に言葉を浴びせた。「まったく…」とぶつぶつまだ零すチャンミンに対し、しょんぼりしつつどこかひとごとのような態でユノは視線をそらし、肩をすくめた。

「ごめん、みんなには後で謝っとくよ」横目でチャンミンを見、再び謝る。「ごめんな、チャンミン」

目の前のユノのさまと、特に大事ではなかったということで、チャンミンは一気に気が抜け、ものすごい空腹が襲ってきた。早くビビンバ定食が来ないかなと思った。

「…だけど、なんで、そんな、体調悪そうな感じなんです」

チャンミンは嘆息しつつユノに問い掛けた。

「幸せいっぱいって感じじゃありませんよ」

注文したものが今にも運ばれて来ないかチャンミンはちらりと振り向き、確認しながら言葉を続けた。

目を戻すと、ユノは確かに笑っていた。だが、それはチャンミンには自嘲だと分かる笑みだった。

「…なんなんですか」

「……いやー、なあ」

ユノは言いにくそうに言葉を区切る。片方の唇の端を上げ、また、水滴の描く模様を目に映している。

「…付き合い始めてちょっと経つんだけど。……………結婚してるんだって。彼女」

ユノが、チャンミンを見る。

チャンミンも、ユノを見ていた。

「……昨日、知ったんだ」

はい、ビビンバ定食とサムゲタン定食おまちどおさまでーす、という店員の高い声が、ふたりの頭の上で響き渡った。

女性店員は器用に両手に盆をひとつずつ持ち、微笑んで立っていた。

チャンミンとユノは同時に、彼女の顔と盆から上る湯気を見た。

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